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第14話
◇◇◇
午前十時と、午後三時の二回、園子は縁側にお茶とお菓子、灰皿を工事の人の休憩にあわせて毎日用意する。
それから二階にいる雪史にもおやつにいらっしゃいと声をかける。
まだ大学は始まってなくて、部屋の片づけを終えたら暇になった雪史は、呼ばれればすぐ階下におりていった。
的野は職人さんたちとは少し離れた場所で、買ってきた缶コーヒーを飲んでいることが多かった。
職人さんたちとは年齢も離れているせいか、手持ち無沙汰そうだったから、自然とふたりならんで腰かけて、話をするようになった。
神戸での生活や、今の家族のこと。小さな妹の話や卒業した進学校での出来事。
勉強の話題になったら、的野は自分の通っていた高校との差に驚いていた。
「俺の行ってた学校はいわゆる底辺校って奴だったからさ。俺、教科書なんてマトモにひらいたこともなかったよ。加佐井はすげぇな。小学校の時からおまえ、おとなしかったけど、勉強できてたもんなあ」
しみじみ感心するように言われて、頬が赤くなる。
ほめられるようなことをしてきたつもりはなかった。神戸に行ってからは、ただ、家を早くでたくて勉強しただけだったし。
「……そんなことないよ。おれ他にとりえなんてなかったから。運動もダメダメだったし性格は暗くて要領も悪かったしさ」
反対に、的野は運動神経がひときわ抜きんでていたし、明るくて友人も多かった。
「けど、努力したんだろ。K大受かるほどなんだもんな。俺には絶対無理だな。勉強大嫌いだしさ」
「勉強なんて。的野の方がすごいよ。だってもう働いて稼いでいるんだし。社会に出て責任持って仕事してるんだから。そっちのほうが大人だよ」
自分はまだ仕送りをしてもらい、自立もしていない身だ。あんなにも離れたがっていた父親に、まだ頼らないと生きていけない情けない身分だった。
本当に自活する覚悟があれば、進学もあきらめて働くべきだったのに、そうはしなかった。そんな弱さが、まだ自分の中にはある。
「作業服姿だって、すごくかっこいいよ。見違えてたもん。昔と変わって、しっかりしたんだなあって、見てて思ったから……」
心に浮かんだ台詞を、そのまま口にしてしまっていた。
仕事中の姿を盗み見て感じていたことを、ぽろりともらしてしまう。
隣を振り返ると、的野が目を見ひらいてこちらを眺めていた。
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