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第15話

「……あ」  勢いあまって、ヘンなことまで口走っていた。  作業服姿がかっこいいとか、まるで女の子が好きな男に言うような言葉を。 「あ、……えっと、その、……いや、ふつうに、ただ、そう思っただけで……」  慌ててとりつくろうと、的野が、くっと口元をゆるめた。 「そんなんじゃねーよ」  微笑みながら、間のびした返事をする。 「……え?」  けれど、なぜか目元は痛みをこらえるように眇められていた。 「俺、そんなに頑張ってやってるわけじゃねーし」  瞳を足元に落とす。長めの前髪のせいで、表情が翳ってよく見えなくなった。 「わりと、いーかげんだから」  自分を卑下するように言い捨てる。  それにどう言葉を返していいのかわからなくなり、雪史は押し黙った。  ふたりの間に、小さな沈黙が訪れる。  的野はゆっくりと顔をあげて、自分の思考にふけるように缶コーヒーを静かに口に持っていった。  休憩時間が終わって、職人がちらほら仕事に戻りはじめる。  的野もコーヒーを空けて立ちあがった。 「んじゃ」  短くそう告げると、縁側に腰かけたままの雪史を見おろす。  ちょっと首を傾げられて、それで自分が心許なげに的野を見つめていたことに気がついた。  はっ、と瞬きすると、的野がやわらかく微笑む。 「ユキさあ」  子供の頃のあだ名で呼ばれた。不意をつかれて、胸の奥がつんと甘痒くなる。 「俺と違って、そっちはぜんぜん変わってないんだな」  雪史に視線を投げながらも、遠くを望むような眼差しになった。  さっきの自虐的な雰囲気は消えて、穏やかな表情になっている。 「まじ、頭いいくせに、しゃべるのヘタクソなまんま」  にっと歯をむいて笑うと、唖然とした雪史を残して、笑いながら現場監督の所へと行ってしまった。  残された雪史は、なにがなんだかよくわからないまま、的野の笑顔に振り回されて心臓をドキドキさせていた。

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