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第19話

 顔を赤くしていたら、目の前の的野が助け舟をだしてくれた。 「あんまりいじんなよ。加佐井が怖がってるやないか」 「ひどーい、苛めてるわけじゃないんだからね」  雪史の隣の女の子と的野がじゃれあうような言いあいをはじめる。  雪史は落ち着こうと、コップを手に中身を飲もうとして、ふと的野の肘のあたりに目をやった。  的野の二の腕に、横に座った亜佐実がさりげなく手をかけている。  的野は気づいているはずだろうに、知らない振りをしていた。  注意して見ていれば、ふたりは時々、額をよせあうようにしてこそこそと話をしている。  亜佐実の方は、含み笑いで応えていた。周囲はそんなふたりに何も言わない。  ――ああ。  ……そうか。そういうことか。  そういえば、と思い返してみれば亜佐実には見覚えがあった。  的野のSNSに時々、写真が載っていたのだ。  ツーショットのものもあれば、友人たちと集団で写っているのもあった。いつも一緒にいるんだろう。  つまり、ふたりはそういう関係、――恋人同士なのだ。  それに気づいた時、体温がすうっと下がっていくような感じがした。  的野だったら、恋人がいたっておかしくはない。  明るいし優しいし。見た目だって格好いいし。モテたって当たり前なのだ。 「おい、ジョシ樹、そこのソース取って」  的野の反対隣にいた冬次が、的野のことをそう呼んで、雪史はハッと顔をあげた。 「ジョシ樹ゆーな」  言われた的野は口を尖らせて、ソースのボトルを手にする。 「ジョシ樹なんだからジョシ樹って呼んだっていいやろうがー」  からかう口調で冬次が身を乗りだしてきた。 「オンナ名前のジョシ樹ちゃーん。怒んないでよー」 「冬次、なに言ってんの。やめなよ」  亜佐実が冬次をいさめる。  三人のやり取りに、雪史は場の雰囲気が悪くなるんじゃないかと心配になった。  的野は好樹という名前のせいで、小学校の頃よく『ジョシ樹』とからかわれていた。  意地の悪い奴らに『好』という字を『女子』と呼び変えてはやし立てられたのだ。  その呼び方が嫌いで、取っ組みあいの喧嘩になったこともある。六年の時には相手に怪我をさせて大問題になったこともあった。

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