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第25話

 うつむけば、瞳に痛みをともなう雫がたまる。  的野が隣にいるのに、我慢できずにそれは目の表面を覆っていった。 「……」  またたきをくり返して、涙を目の奥に戻そうと努めてみる。  再会した初日、的野には泣いているところを見られてしまっている。またそんな情けない姿をさらすのは嫌だったから、下を向いたまま、瞼を何度も動かした。  的野は黙って隣にたたずんでいた。こちらの気配を察してか、言葉はかけてこない。  気まずい空気が流れて、雪史はどうしようかとあせりだした。  そのとき、頭上から何でもないことのように、かるい調子で声がかけられた。 「ハラへらね?」 「え?」  思わず、顔をあげてしまう。 「この時間さあ、俺いっつもハラへるの」 「……うん」  いつも通りの、普通の表情だった。 「加佐井が引っ越しちゃってからさ。こっちにも、うまいラーメン屋がいくつもできたんよ」 「へえ……」 「今から、食いにいかね?」 「え?」  ズボンのポケットから手をだして、腕組みをして両手を脇にはさみこむ。 「俺、車だすからさ」 「……」  大きく目を見ひらいていたら、涙は乾いて飛んでいってしまった。 「ラーメン、嫌い?」 「いやそんなことない」  首をぶんぶんと振って否定した。 「なら、食いにいこ」  にこっと笑った顔は、普段どおりで、なんの含みもないように見える。  それで、雪史は気持ちが楽になった。  ふたりで歩いて、的野の家に向かった。的野の家は、商店街の外れの平屋の一戸建てだった。

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