27 / 66
第27話
さっきの空き地でのことを、まだ引き摺っているのかと勘違いされたのかもしれなかった。
「何でもない。お腹すいたなあって」
フロントガラスの先を見ながら、笑顔をとりつくろう。
「そか。俺も今日は力仕事ばっかでハラへったわ」
今は亜佐実のことは忘れよう。取り壊された家のことも、親のことも。
せっかく的野が誘ってくれたんだから。暗くならないように楽しくすごしたい。
郊外にでれば、家なみはまばらになり畑や田が広がり始めた。
三車線の国道沿いには、大型店舗が一定感覚で目立つ看板を掲げている。夕暮れ時の車たちは、皆がどこかに帰ろうと急いでいるように見えた。
店につくまで、的野は何かと雪史に話しかけてきた。
神戸では食い物は何がうまいのかとか、観光地には行ったことがあるのかとか。
自分のことはそれほどしゃべらず、雪史のことばかり聞きたがった。
元来話すのはうまくなかったけれど、質問されたらそれに答えようと口と頭を一心に動かしているうちに、寂しかった気持ちはまぎれて、いかにも美味しそうな店構えのラーメン屋についたときには空腹とラーメンへの期待だけになっていた。
「うまい?」
「うん、すごくおいしい」
向かいあわせの席で、お互い熱いどんぶりと格闘する。はふはふ言いながら、競うようにかきこんだ。
「加佐井は何ラーメンが好きなの? ここの店は家系だけど」
「家系好きだよ。さっぱり系も好きだけど」
「俺は豚骨も鶏も好き。そうそう、街ン中行ったら海老とかもあるよ、甘海老のダシ」
「海老のは食べたことないよ」
珍しいね、と答えながら半熟卵を絡めた麺をすする。的野は雪史が食欲を見せるのに喜んでいるようだった。
「輪島の方とか行ったら、トビウオのダシの店もあるんよ。そこ、すっげー美味いの。まじ、驚くよ食べたら」
「トビウオ? トビウオって、あの空飛ぶ魚?」
雪史の問いかけに、的野が「へ?」という顔をする。
雪史も思わず「え?」と顔をあげた。
「……空飛ぶ?」
「……ぇ」
飛び魚は空を飛ぶわけじゃない。ただ海面から跳ねるだけだ。
もちろん雪史もそのつもりで言ったのだが、口から出てきた言葉はまるで魚がヒレで空を飛んでいるような表現になってしまった。
会話下手な自分は時々、こういうミスをする。
ともだちにシェアしよう!