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第29話

 会話の内側に込められた優しさ。  表にでてこなくても、護られているという安心感に包まれていく。  お腹も気持ちも満たされて、暖かい車内で、とりとめのない会話で笑いあっているうちに、いつのまにか雪史の中から寂しさは消えていた。  家の前まで送ってもらい、停車したのでシートベルトを外す。なんとなくまだ別れ難くて、会話をつなぐ言葉を探した。 「えと……。今日はありがとう。ラーメン美味しかったし、……楽しかった」  相手の顔を見ながらだと恥ずかしいから、バッグを握った手に視線を落としながら伝えた。 「そか。ならよかった。またふたりで行こうな」  暗い車内に街灯が入りこんでいる。  視界の端に映りこんだ、的野の姿が浮きあがっていた。  ハンドルに腕をかけて、的野はフロントガラスの先を見つめていた。  その瞳が、つと、雪史のほうに向けられる。引かれるようにして、雪史も目をあげた。  お互いの視線が、意図せず交差する。  的野の頬に、えくぼが影を落としている。そのせいか、笑っているのにすこし寂しそうにみえた。 「ユキが楽しかったなら、こっちも安心する」  瞳には、いたわるような、慰めるような色があった。優しさと慈しみもあふれている。  けれどそれだけじゃない気もした。同性の友達にするには、あまりにも甘い眼差しだった。  雪史は思わず目を伏せた。  こんな風に感じてしまうのは、きっと自分の中に的野に対する恋愛感情があるせいだ。  そのフィルターが自分の都合のいいように、目の前の光景を見せている。 「……じゃあ、また」 「うん。また、明日」  車をでれば、早春の爽やかに冷たい風が火照った頬をなでていく。  また明日と言われて、いけないと思いつつ、嬉しくて胸が熱くなった。

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