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第30話 恋人のふたり
◇◇◇
それから何度か、雪史は的野に誘われて車で遠出をした。
ラーメン屋めぐりにも行ったし、買い物や行き先を決めないドライブにも付きあった。
雪史のスマホには、毎日のように的野からのメッセージが送られてくる。冗談半分の、ほとんど意味のない呟きのようなそれに、雪史は律儀に毎回返事を送った。
時には冬次や亜佐実や友達らと一緒に、遊びに出かけるようにもなった。
食事や映画や、商店街の花見祭。的野のSNSには、雪史の写真も載せられるようになった。
それを初めて見た時は、嬉しいようなくすぐったいような、なんとも言えない幸せを感じた。
いつも憧れて眺めているだけだった小さな画面の中に、的野や友人たちと一緒に自分も入りこんでいる。
自分の姿だけコラージュなんじゃないかと疑いそうになるくらい、すごく不思議な気分だった。
家のリフォームは順調で、今週末には終わると聞いている。工事が終了したら、的野と会う時間は減ってしまうのかな、と画像を見ながら寂しく思った。
いつまでも友達ではいられるだろうけど、きっとそれ以上にはなれない。たまに会って、食事に行ったり話をしたり。それくらいで、それ以上は進展しない。
だって、ただの友達なんだから。
ある日の大学からの帰り道、冬次の家のコンビニに近づいた時に、雪史は店の前のガードレールに的野が腰かけているのを見つけた。
スマホを手に、親指をのんびり動かしている。
こんな所で何をしているのかと声をかけようかと思ったところに、店から人が出てきた。
春色のコートをまとった女性が、的野を見つけて声をかける。
薄化粧で微笑んでいるのは、亜佐実だった。
バイトが終わったところなのだろう。かろやかに走りよれば、的野もガードレールから身を起こした。
並んで歩きだすと、亜佐実はごく自然に的野の腕に自分の手をからめた。
亜佐実が何か楽しい話題でも振ったのだろう、的野がそれに微笑んで返す。
冗談を言いあっているのか、亜佐実が肩をぶつけて、それに的野が片足をあげてかるく蹴るように応酬した。亜佐実は逃げながら屈託なく笑った。
離れた場所にいても、ふたりの笑い声が聞こえるような気がする。
恋人同士の、親密さが伝わるじゃれあいだった。
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