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第33話
『コンパの帰り。ぶらぶら歩いてる』
『まじで? なら、そのまま歩いてろよ。車で迎えに行く』
『え? いいよ、来なくて』
『ユキ誘って、ちょうどでかけようと思ってたとこ。待ってて。いいとこ連れてってやるから』
いいところ? と言われて首をひねる。こんな時間からでかけるなんて、一体どこへ行くつもりなんだろうか。
ほどなくして、見慣れた車が雪史の所にやってきた。
「乗って」
運転席の窓をあけて誘ってくる。車には的野しか乗っていなかった。
「どこいくの?」
車に乗りこみ、シートベルトをはめながらハンドルを握る的野にたずねる。
「いいところ。一回、ユキを連れて行ってやりたいと思ってたんだ」
車を発進させて、市街地を通り抜けていく。
しばらく走ったあとで、的野は空き地の駐車場に車をとめた。
「ここから少し歩いたところだけど」
市街地に流れる大きな川沿いの一角だった。真夜中ちかくの通りには誰もいない。
堤防までくると「こっち」と呼ばれて急な堤防をふたりで登った。
堤防には桜の樹が一面に植えられていた。対岸にもいくつも並んでいる。
散り際の桜は風がなくともはらはらとその身から美しい飾りを落としている。はかなくて、優美な眺めだった。
堤防の内側を下りていくと、川の近くにフェンス張りの手すりがあった。そこにふたりで手をかけた。
「川の向こう側の通りさ、覚えてる? 昔、みんなで自転車飛ばしてさ。ほら、あのへんの駄菓子屋とか探検したの」
「ああ、うん、覚えてる」
「ここら、観光のために最近、街燈の色を変えたんだ。オレンジっぽいレトロな色だろ。だから、夜桜がすごくいいかんじにライトアップされるようになったんだよ」
「……へえ」
「明日から雨が降るって天気予報で言ってたから今夜が最後の見ごろだろうから。夜桜、じゃなくて夜中桜。ユキ、まだ見たことなかっただろ?」
「……うん」
「散る前に、見せてやりたかったんだよ。俺が、一番のりに」
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