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第37話

 ふたりの関係は、的野にとっても亜佐実にとっても間違っているんじゃないかと、そう思えたからはっきりと、別れるべきだと口にした。  雪史のきっぱりとした言い方に、的野もなにか大切なことを気づかされたかのように、顔つきを変えた。 「……わかった」  睫がふれあうほど近くで、雪史にむきなおる。 「亜佐実には、ちゃんと言うよ。きちんと謝って、もう、恋人ごっこは終わりにしてもらう」 「……ん、それがいいと思うよ。亜佐実さんのためにもその方が」  雪史のアドバイスに、的野が微笑んだ。肩の荷がおりて、安堵したという笑い方になった。 「ありがと、ユキ」  的野らしい、いつもの明るい笑顔が戻ってきて、雪史も安心する。  感謝されるようなことをしたつもりはなかったけれど、的野のためになったならよかったと思えた。  そのまま夜更けまで、ふたりで頭をくっつけて、散ってく桜を眺めてすごした。  静かな川の音、柔らかな灯りの下に、終わることなく舞い落ちる花びらの群れ。 「ユキを誘ってよかったよ」  的野が額をこつんとぶつけてくる。 「叱られて、嬉しかった」  はにかむような笑顔で告げる。  雪史の体温は、寒いのにどんどん上昇していった。  お互い、白い息をまとわせ、それ以上の言葉はなく身をよせあう。  桜が散れば消えてなくなるこの時間を、雪史は大切に、胸の奥にしまった。

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