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第40話

 中から顔をだしていたのは的野の母親だった。外の騒ぎを聞きつけて、家の中からでてきてしまったらしい。  三人の様子を、いぶかしげな表情で、けれど口も挟めずに注視している。  通りの三人は誰もそのことに気づいていなかった。 「冬次、なにすんのよっ。あんたには、関係ないことでしょっ」  亜佐実は、今度は冬次の服をつかんでなじり始めた。 「けど、こいつ、ホモなんやで。女なんか好きになれんのに、おまえのこと騙してたんやぞ」 「知ってるって」 「えっ」  冬次が、上着を握りしめる亜佐実を見おろす。 「知ってる。知ってるけど、無理にあたしが頼んでん。付き合ってって。男好きやかって、女の子好きになれる人やっておるんやろ?   だから一緒にいれば、仲良くしてれば、そうなれるかもって、あたし、そう思ったから、それで、あたしが的野を説得したんよっ」 「じ、じゃあ、おまえも気づいとったんかよ、的野がそうやったって」 「おまえもって、じゃ、あんたこそ、知ってたん」  冬次が、言い訳みたいにうわずった声で続けた。 「み、みんな知ってることや。知らんのは、的野だけや。俺らみんな昔から気づいてん。だから、なんで亜佐実と付き合えるんだよって、前から噂してたんだよ」 「ええっ……」 「ひどい奴なんか、ホモで亜佐実とちゃんとヤれてるんか、って陰でからかってんやぞ」  亜佐実が口を手で押さえて、息をのんだ。 「だから、俺、いつも亜佐実のこと心配して――……」 「やめろよおっ」  顔を見あわせ、話しだしたふたりに向かって、雪史は我知らず叫んでいた。  気がついたら、大声を張りあげていた。 「やめろって……」  いつもは、ぼそぼそと喋るばかりで大きな声などだしたことのない雪史の叫びは、情けなくも裏返って、語尾はみっともなく震えてしまった。  それでも、止めることはできなかった。  いきなり現れて怒鳴った雪史を、冬次と亜佐実が唖然とした表情で見返してくる。  雪史の目は自然と家の玄関に移動した。  ふたりの視線がそれを追う。  的野の母がこちらを見ていることに気がついて、ふたりともハッと身を引いた。

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