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第47話
「え? なんで?」
雪史は身体を的野の方に向けた。
首筋が引っ張られて、まだシートベルトをはめたままでいることに気づいて、あわててそれを外す。
「なんでそんなこと言うん? おれ、そんなこと、ぜんぜん思ってなんかいないよ」
それに、的野は苦笑した。
「ユキは変わらず優しいな。さっきだって、ふたりの前に飛びだして俺のことかばってくれたやろ。あれ、ホントはめっちゃ嬉しかった」
「的野、ちがう」
雪史は、ポケットからスマホを取りだした。震えはじめた指先で、電源を入れる。
「おれは的野のこと、そんなふうに思ったことなんてない。おれは、他の人みたいに、冬次たちみたいに的野を見たりなんかしてない。だって……だって、おれは、おれだって……ずっと……」
言葉足らずで、舌がもつれる。伝えたいことがあるのに、それが一気に溢れでてきて、喉元で渦をまいた。
雪史は下手な説明を補おうと、懸命に指先をスマホの画面に押しつけた。
「こ、これ……」
差し出した薄い機械に、的野が怪訝な表情を向ける。画面に視線を落として、驚いた顔をした。
そこには、中学時代の的野の写真があった。
今はもう閉鎖されてしまった、昔の的野のブログから保存したものだった。
「まだ、ある。的野の写真は、いっぱいある。おれ、神戸行ってからもずっと、的野のこと、探して追いかけてたから」
「……え?」
「的野に会いたくて、顔が見たくって。だから、ずっと、ネットで探し回って、いつも見てた。神戸で辛かった時も、的野の笑顔見たら、元気になれたから。
嫌なこといっぱいあったけど、的野の笑ってる顔見たら、なんとか乗り越えられるような気がして。だ、だから、ここに戻ってきたのだって、本当の理由は、また本人に会いたかったからで……」
運転席の的野は、唖然とした表情でこっちを見てきていた。
雪史は、自分がしゃべりすぎたことに気がついた。
目があえば、恥ずかしさに顔がカッと赤くなる。
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