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第48話
「だ、だから……」
続かなくなった言葉をつなぐようにして、的野が口をひらいた。
「ユキにあの部屋で再会した時」
「……う、うん」
「泣いてる顔が、すっげー可愛かった」
「……ええ?」
「目と鼻、真っ赤にしてぼろぼろ涙こぼしてて」
「そ、そんな……」
あの情けない顔が、可愛いなんて。そんな訳あるはずがないのに。
「どうしてくれようかって思うくらい、可愛かった」
「……」
「で、次の日に、風呂場で、いきなり素っ裸のユキ見せられて」
顔から火がでる思いがした。
あの時のことは消し去って、忘れたい出来事だ。それなのに、的野は思いださせるようにして、口をとじようとしない。
「俺のなかの、なんか、いろんなものが壊れた」
「壊れた?」
的野はゆっくりとうなずいた。
「うん。壊れた。理性とか欲望とか、そういうものが全部、ユキを見て壊れた」
今度は雪史が唖然とする番だった。どう答えていいのかわからなくて、口をあけたまま固まってしまう。
「それで。ユキには絶対に、自分の気持ちは知られたらいけないって思った。知られたら友達関係も終わるだろうから」
知らぬうちに、首を横に振っていた。的野が自分と同じことを心配していたなんて。
震えるように反応する雪史に、的野は小さく微笑んだ。
確認するように、優しくたずねてくる。
「……なんで、俺に、もう一回、会いたいって思ってくれたん?」
言いながら、さしだしたままだったスマホにもう一度、視線を落とす。
問われた雪史は、口の中で未熟な舌をこごらせた。生まれてから一度もしたことがない告白は、ひどく気恥ずかしくてためらわれる。
的野が目だけをあげてくる。そこには、答えを求めて熱く揺れる眼差しがあった。
雪史がはっきりとその理由を告げれば、きっと的野は楽になる。長年、ひとりで抱えて苦しんでいた悩みから解放される。
そう気づけば、すっと流れるように舌は動いていた。
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