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第49話
「的野のことが、ずっと、好きだったから」
――目の前の表情が、やわらかくほころんだ。
安堵するように、小さくため息をもらす。
そこではじめてシートベルトを外すと、助手席の方へと身をよせてきた。
「そか」
目元をとろかせるようにして笑んでくる。そんな嬉しそうな顔は見たことなかった。
「すっげえ、嬉しい」
ささやきながら、的野が近づいてくる。
運転席から乗りだすようにして、雪史に告白した。
「俺も、ユキのことが、どうしようもないくらい好き」
瞳を間近であわせれば、視線を雪史の口元に、つと移す。
目をとじると、的野はシートを軋ませて、静かに唇に触れてきた。
最初は羽のような吐息で、それから唇で。
その不思議な感触に、雪史は瞼をおろしたまま身をまかせた。
「……ユキ」
重ねた唇から、かすれた声音がもれる。
「おまえが帰ってきてくれて、よかった」
心からの言葉が、身体に沁みてくる。
雪史は的野の背中に両腕をまわして、上着をつよくつかんだ。
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