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第50話 はじめての夜
◇◇◇
ふたりでそのまま、長い時間、話をした。
的野は今まで自分のことはほとんど話さなかったけれど、枷が取れたせいか、過去の出来事もこだわりなくしゃべるようになった。
小学校の頃の思い出話から、離れていた中学高校時代のこと、そうして、再会してからのこと。
雪史も自分の神戸での生活を、あのころ思っていたことを包み隠さず話した。
話している間に、雪史は心の中にわだかまっていた長年の悲しみが、やっとほぐれて流されていく気がした。
わかってくれる相手に聞いてもらえて、はじめて、悲しみは癒されていくようだった。
それは的野も同じだったのだろう。自分の抱えていたものに耳を傾けてもらえるという嬉しさが、言葉の端々に感じられた。
日が暮れて真っ暗になるまで、的野は助手席に移動してきてシートを倒し、せまい空間で額をよせてささやきあった。
やがて腹もすいてきて、山を降りてふもとまで来ると、『とっておきの隠れ家』にしているというラーメン屋に連れて行ってくれた。
店をでたのは、午後九時すぎ。暗くて人気のない駐車場で、的野は雪史の手をとって、指をからめてきた。
「これから、どする?」
車までの短い距離を、手をつないで歩く。指先に、ぎゅっと力をこめてきた。
「もう帰る?」
少しそっけない言い方だった。けれど反対に、五本の指は、帰したくない、と言ってきている。
雪史だって、このまま帰りたくはなかった。的野と離れてひとりになりたくなかったし、的野をひとりにもしたくなかった。
「……まだ、帰らない」
見あげれば、的野は淡く笑っている。
「じゃ、ふたりで、どっか、ドライブいこう」
車に戻りしな、的野が確認するようにきいてきた。
「一晩中でもいい?」
キーを手に、ルーフ越しにたずねてくる。
「……うん。ばあちゃんに連絡入れれば……いい、と思う」
的野は了解、というようにうなずいた。
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