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第52話
時間をかけて、知らない街へと移動する。
とりとめのない話題も、中身に少しずつ、互いの緊張がまざり始めていった。
夜の帳がおりて、まっすぐな道が遠い場所へとふたりをいざなう。誰も知らない果ての国に向かっているような気がした。
二時間ほど流してから、的野は駅前ちかくにあるビジネスホテルに車を入れた。
チェックインをすませて、ホテル脇のコンビニでペットボトルの飲み物や替えの下着をなどを買ってから部屋に入る。
ビジネスホテルに泊まるのは初めての雪史は、珍しげに部屋の中を見渡した。
窓は小さく、そこからは知らない街の明かりと、ほんの少しの星明りが見えていた。
ベッドに腰をおろせば、本当に、ふたりきりのこの小さな部屋は外界から切り離されて、世界の狭間に放りだされてしまった心地がした。
ここにいることは誰も知らないし、ここで過ごす時間は、きっと誰も知ることがないんだろう。
的野が先にシャワーを使って、それから雪史がユニットバスでひとり準備をした。Tシャツに下着だけの格好でバスからでると、ベットの端に座っていた的野が手招きしてきた。
そばまでよっていって、前に立つ。心臓がうるさく跳ねて、口から飛びでそうになっていた。
「……的野」
「うん?」
見あげてくる的野の瞳は平静で、すごく落ち着いて見える。
緊張しているのは自分だけかと、雪史は心細くなってしまった。
「お、おれ」
「うん」
「こ、こういうの、は、初めてだから……」
「俺も、初めてだよ」
その答えに、驚いて目をみはった。
「だ、だって、彼女がいたやんか」
「いたけど、恋人の振りしてただけだから。そういうことは、なんにも、してないよ」
的野が手をのばして、雪史の手のひらを握ってきた。
すごく熱くて、そうして、少し震えていた。
「俺ら、きっと、ヘタクソ同士だ」
よく見れば不安そうな笑顔に、緊張しているのは自分だけじゃないんだと、雪史は悟った。
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