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第53話
手を引かれて、隣に腰かける。部屋にはオレンジ色の淡い明かりしかなかったから、的野の表情も翳っていた。頬の片方だけが、暖かな光に照らされている。
改めて、相手の顔をじっと見つめてみた。睫は長く、瞼にはくっきりと二重の線が走っている。綺麗な形の眼だった。鼻筋は通っていて、唇は薄い。口の端は、さっき殴られたせいだろう、赤紫に腫れあがっている。そこを避けるようにして、的野は唇を寄せてきた。
キスも手のひらと同様に熱かった。雪史が目を瞑ると、舌を差し入れてくる。他人の舌を自分の舌先で感じるのは、奇妙な感覚だった。舐めることしかしない部分を舐められている。ゆっくりと撫でられて、背筋に変な疼きがきた。
肩を抱かれてベットに押し倒され、Tシャツの裾から、的野が手を忍び込ませる。わき腹が反射的に引き攣れた。
「……っ、あ……」
思わず出てしまった喘ぎに、的野がひたと動きを止める。雪史の顔を覗き込むようにして、心配そうな声を出した。
「ユキ」
名を呼ばれて、こちらも不安げに見上げてしまう。
「脱がせてもいい?」
的野の手のひらは、雪史の腰の辺りに添えられていた。そこから、相手の熱が伝わってくる。瞳を合わせながら、雪史は慄くように頷いた。
的野は身体を起して、ベッドサイドのボタンを操作すると部屋の明かりをさらに落とした。自分が先にベッドに乗り上げて、雪史の腕をとる。誘われるまま、シーツの真ん中にふたりで横になった。
的野は雪史と向かい合って、抱きしめてきた。首元に顔を埋め、そこに唇を寄せる。食むように口づけながらTシャツを捲くりあげ、胸の小さな尖りを重ね合わせて、かるく揺すった。くすぐったいような、官能を刺激するような感触に肩を竦めると、的野はそれに深いため息を洩らした。
そうしてから、腹と腰をくっつけてくる。的野も痩せているし、雪史も薄っぺらい身体をしている。互いの腰骨の出っ張った部分が当たると、そこがちょっと痛かった。
ふたりともTシャツにボクサーパンツだけだったから、下半身が反応し始めれば、すぐに相手に伝わってしまう。的野は雪史のシャツを脱がせると、自分もそれを脱ぎ捨てた。
「全部」
そう言うと、雪史の下着に手をかける。今更恥らうのもみっともないかと、雪史は自分から進んで下ろした。的野も倣って、ふたりそろって下着を放り投げる。ピンと張ったシーツの感触が肌寒かった。
視線を下腹に落とせば、暗い茂みに硬く反り返る的野のものが見えた。自分のそこも同じように興奮している。頬を赤くしながら遠慮がちに視線を向けると、的野が肩をつかんで仰向けに倒してきた。
雪史の腿の間に足を入れてのしかかってくる。根元のあたりを擦り合わせて、ひたとくっつけてきた。相手の体温が、そこからゆるく流れ込んでくるのがわかる。
「俺の方が長い」
俯いて、にっと口角を持ち上げた。雪史は上体を起こして、重ねあわされた互いの分身を観察した。
「……けど、的野の方が細いよ」
負けたくないような気がして、つい競うようなことを言ってしまう。的野は、ふっと笑うようにして囁いた。
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