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第55話

 両足は的野の腰に阻まれて閉じることができない。膝がいつの間にか立ってしまって、尻が浮いていた。  腕を口にあてて、高い声が出そうになるのを押さえると、的野が上体を倒して、その腕をかるく噛んでくる。退かせということらしい。瞳から余裕が消えている。怖いほどの眼差しに、雪史は腕を離して、シーツの上においた。  頼りない皮膚をなでていた指がいつの間にか、さらに奥へと降りている。雪史の先走りで濡れた指は、ある場所を探すようにして、狭間をさまよいだした。 「……ま、まと、の?」  問いかけても、返事がない。目を雪史から逸らし、指先に神経を集中するように、上の空な表情をする。 「的野」  怖くなって、もう一度呼びかける。それでも、今までの気づかうような様子は消えうせて、強引な、何かに追われるような振る舞いをしだした。身体を伸び上がらせ、ベッド脇のサイドボードの上にいつから準備されていたのか、小さなボトルと紙箱を手にとる。  それは、先程コンビニによったときに的野が買い求めていたものだった。歯と右手を使ってベビーオイルと書かれたプラスチックの瓶をあける。  有無を言わせぬ雰囲気で、的野はそれを右手に垂らした。やっと視線を上げると、許しを請うような、けれど後にも退けぬといった真剣な表情をする。奥に指を這わせてくると、あ、と感じた瞬間に、それを体内に潜らせてきた。  はやる乱暴な指先の動きに、雪史は、身体をビクリと跳ねさせた。同時に「いっ」と、痛みを堪えるように呻いてしまう。  それを聞いて、的野が手を緩めた。すぐに身体の内から指先が去っていく。 「まずかった?」  雪史は首を横に振った。けれど、涙目で、怯えるような表情にはなってしまっていたかもしれない。初めてのことだったから、やっぱり怖かったのだ。 「ごめん……。あせりすぎやな、俺」  的野が片手で、雪史の頭を抱くようにしてくる。 「ううん、大丈夫。だから。好きにしていいよ」  ユキ……、と吐息のような声音で呼ばれた。 「我慢するなよ。イヤならそう言えよ」  的野だって初めてのことで加減がわからないのだろう。何もかもが手探りで、けれど雪史は決して嫌ではなかった。  肩に手をまわして、つよく抱きつく。 「もっと、して。もっとしていいから」  的野が感じるところを見ていたい。自分とセックスして、いつもと違う表情になって、官能的な蕩けるような顔をしてほしい。  大丈夫だからと、先を促すように、相手の頬や、顎に口づけた。  的野がそれを受けとるために、顎を反らせて喉をあらわにしてくる。雪史は喉仏を舐めるように辿って、鎖骨までくると、薄い皮膚を唇でつまんだ。こちらからの積極的な行為に、頭上で的野が満足そうにため息をつく。 「……ユキ」  再び指が身体の内に滑り込んできた。今度は驚かなかったし、身を委ねることも無理なくできた。  小刻みな喘ぎだけが間断なく洩れて、感じていることを伝えれば、紅潮し始めた頬に、的野は何度も堪えるようなキスをしてきた。

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