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第56話

 やがて的野が、雪史の身体から指を抜いて、足を崩した胡坐に体勢を変えた。ボトルの横にあった紙の小さな箱を顎で示す。 「ユキ、それ。その箱、あけて。俺、両手がふさがってる」  ぼんやりとしていた雪史は、身を起こすと、手渡されたコンドームの小箱をよくわからないままに開封した。個包装をひとつ取り出して、破いてみる。使い方は学校の保健の授業で教わっていた。 「な、それ。俺のにつけて。俺、手がすべって上手くつけれん」 「う、うん……」  頼まれて、素直に言いつけ通りにする。初めての実践が的野になるとは、雪史自身、想像もしていないことだった。ふたり向き合って座り、敏感な部分をそっと包みこんでいけば、的野は手先をじっと見おろしてくる。真剣な雪史をみて、「すげえいけないことさせてる気分」と言って口元を持ち上げた。  根元まできちんと装着させて、習ったとおりにできたことにほっとしていたら、もう限界、とばかりに的野が雪史を押し倒してきた。 「挿れていい?」  確認の言葉だったけれど、それは実質、宣言だった。  答えを待たず、的野は雪史の足を開いてくる。覆いかぶさって、唇に舌を差し入れるのと同時に下半身にも侵入をし始めた。  濡れてやわくなっていたそこは、難なく先端を呑み込んでいった。  雪史は瞬きを繰り返しながら、濃い橙色の天井をただ見上げていた。唇を離した相手は、ふかく呼吸しながら、苦しげな呻きを時折たてる。雪史の首筋に顔を埋めて、熱い息を吹きかけ、何度も小さく名を呼んだ。  繋がった場所は痺れたように熱をはらみ、未知の痛みと疼きは雪史の不安な気持ちを惑乱したけれど、「ユキ、ユキ」と繰り返す、助けを求めるような、縋りつくようなその響きに、雪史の心と身体は、的野のために次第に変化していった。 「……ん、……ぅんっ」  相手の背中に手をまわして、撫でさすっているうちに、自分の痛苦も緩んでくる。的野が下半身を揺らし始めるころには、雪史も少しはそれについていくことができるようになっていた。 「……あ、あ、……ぃ、いっ……」 「いいの?」 「ん、ん、うん、……あ、いい」  いい、と言葉にすれば、もっとよくなるような気がして、誘われるまま口にする。  的野の指が、雪史の硬くなった性器に触れてきた。とたんに腰が跳ねるような鋭い快感に襲われる。そうすると、敏感なところを容赦なくこすりあげられた。 「あ、ああっ、ア、ああっ……、んん――」  みっともないくらい高い声が出る。止めようにも止められない。逃れようとシーツを蹴って、身を捩って、涙目になって首を振ると、その姿を見ていた的野が煽られたように腰に力を入れてきた。 「あっ。うっ、……ん、んんっ……」  自分の声を最小限に抑えて、的野の息づかいに耳をそばだてる。 「……ユキ」  感極まったような甘い喘ぎに、心も融けていきそうだった。

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