57 / 66

第57話

「んっ、んん」 「ユキの声、すげー、いい……」 「ん、うん、……うん」 「腰んとこに、すごくひびく……」  的野が下肢を押し付けてくる。最初はぐいぐいと奥を突くばかりだったけれど、そのうちに抜き差しすればもっと気持ちよくなれると悟ったらしく、少し離れて、それからまた、摩擦熱を伴いながら侵入してきた。 「……は」  握られたペニスから、泣くように雫が溢れている。それは的野の指の間を濡らしながら、解放を望んで自ら切なげに揺れた。的野が快楽に追われて、先へ先へと身を進めようとしてくる。雪史は相手の首に両手を巻きつけ、目を閉じて与えられる感覚へと没頭した。 「……あ……、ユキ……」  聞いたこともない、苦しげな、けれど愛情のこもった呼び声に、背筋にそって痺れが下りる。下半身が瓦解して、腰から力が抜けて、快感だけに流されていく。 「……的野――」  限界が近づいていた。短く息を継ぎながら、相手の髪をかき抱く。的野も細切れの吐息を繰り返していた。  やがて、ひときわ低く獣のように呻いて、背中を強張らせる。 「ん……ん、んっ――」  その瞬間、雪史も引き摺られるようにして、頂まで連れて行かれた。  制御できない震えが、嵐のように全身を襲う。同時に、的野の腹と指を、乳白の雫で汚した。 「……は……っ」  頼りなげな声音が洩れて、涙目になってしまう。  快楽の波がひいて、余韻が肌をなめらかにゆるめるまで、雪史はずっと相手に縋りついていた。  的野がそれにやわらかく微笑む。  朱に染まった頬に、自分の頬をすりつけてきた。全身の力が抜けていた雪史は、されるがままにした。  そうしていると的野がくたりと雪史に凭れてくる。 「……ユキ」  耳たぶに唇よせられ、吐息だけで呼ばれた。  力を抜いた、的野の重さが心地いい。 ゆっくりと速度を落とす相手の鼓動が、雪史の胸に響いてくる。  ふたり重なったまま、しばらくの間、動けないでいた。  雪史の上で両手足を投げ出した的野が、独り言のように呟く。 「――俺、これでやっと自由になれる気がする……」  うなだれた頭の向こうに、羽根のように盛り上がる肩甲骨が見えた。あえかなため息をつくたび、羽ばたこうとするかのように小さく上下している。  震えるそれに、雪史はそっと、自分の手のひらをのせた。

ともだちにシェアしよう!