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第58話 新しい朝

◇◇◇  次の日は、午前五時に起きて知らない街をあとにした。  平日で、的野は仕事がひかえていたからだ。  あわただしく出発の準備をととのえ、朝日がまだ顔を見せないうす蒼い国道を、ふたりで故郷の街へと引き返した。  コンビニによって、朝食のサンドイッチと飲み物を購入し、車の中でふたりで食べる。 「先に俺の家によって、作業着に着がえてからユキを家まで送ってくから」  そう言われて、まず的野の家に向かった。  家の前で車をとめると、なぜか雪史にもおりてと言ってきた。 「実はさ、ユキに見せたいものがあるんだよ」  何なのだろうと、後をついていく。的野は平屋の家をぐるりとまわって庭に雪史をつれて行った。  あまり広くない庭には、ツツジや松などが刈りこまれて所々に植えられている。  その一角に手招きされた。 「これ」 「え?」  的野が一本の、細くて背の低い木に手をあてる。 「この木、何かわかる?」 「……?」  葉が落ちて、寒々しく立つその木が何なのかは、よくわからない。 「これ、ユキんちの柿の木」 「えっ」  的野は木肌をなでるようにして、一メートルほどに育った木を見おろす。 「ユキんちの解体作業、うちの工務店がやったんだよ。俺が高一のとき。あのころ、俺さ、更正しようと思い立ったばかりでさ。バイト始めたところで。そんときにユキの家の仕事も手伝ったんだ」  その頃を思いだすように、的野は木を眺めた。 「職人さんがさ、柿の木も切っちゃって。その倒れた木を見てたらなんでかわかんないけど、ユキの顔を思いだしてさ。  神戸に行っちゃったユキのこと、家が大変だったって、みんなから聞いてたから。これもみんな無くなっちゃったら、ユキは悲しむだろな、って」 「……」 「一緒に縁側にならんで、干し柿食べたことや、あんときのユキの笑顔とか。そういうの思いだして。ちょうど秋で、木に実がなってたんだよ。だから、実をいくつか持って帰って、ここに埋めたんだ」  こちらを向いて、にっと笑う。 「芽がでればいいなと思ってたら。ホントにでた」

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