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第59話

 それから少し、恥ずかしそうにする。 「杉山さんちが、ユキのばあちゃんちだって聞いてたから、もしかして、いつかユキも遊びに来ることがあるかもしれないって思って。その時、この木見たら、ちょっとぐらいは喜ぶかなって」 「……うん」 「なんとなく。……なんとなく、そう思っただけなんだけどさ。けど、これがあれば、またユキと話ができるかなあって。昔みたいに」 「……うん」  ふたりでまだ若木の柿の木を見る。  雪史は、今はもうない家で暮らした時のことを思いだした。母がいて、小学生の自分がいて、隣には的野の笑顔があって。  的野がその思い出のかけらを、こうやって育ててくれていたことが、嬉しかった。失いたくない日々を大切に、ここに小さな形として保存してくれていたことが、すごく嬉しかった。 「……ありがとう」  礼を言えば、的野も微笑む。 「でも、まだ、実はつけてなくって。ホントは実をつけてから知らせようかなって、考えてたんだ。  ――けど昨日の夜さ、ユキが寝てるとき、寝顔を見ていたらさ。……なんつっか、その、この木の成長を一緒に見守っていくのもいいかなあと思えてきて」  的野が木肌に手をついて、なでるようにする。 「そしたら、ユキ、ずっとここにいてくれるだろ」  自分の言ったことが恥ずかしかったようで、的野は肩を小さく竦ませた。  聞いている雪史も恥ずかしくなってきた。寝顔を見られただけじゃなく、これからもずっと一緒にいたいと思ってくれていたなんて。  話の途中で的野は、「――あ」と言い、ポケットからスマホを取りだした。  メッセージを確認して、くすりと笑う。 「どうしたの?」  雪史がたずねれば、「いや」と言いながら、親指で画面をスクロールさせていく。  ずいぶん大量のメッセージが届いているようだった。 「昨日からずっと震えてたんだけど、ユキとの時間じゃまされたくなかったから放っておいたんだ。冬次と亜佐実から、めっちゃメッセージが送られてきてる」 「え?」 「すっげー、謝ってきてる。特に、冬次が」 「……」

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