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第60話
「『悪かった』『ごめん』『あの時は普通じゃなかったから』……『本気で思ってるんじゃない』」
的野は画面を見ながら微笑んでいた。
「『今度からは、おまえのこと悪くいうやつは、俺がちゃんと止めるから』だって」
「話し合いは、ちゃんと、ついたんだよね?」
「うん。昨日、ちゃんと話した。けど、あんときは短い時間だったから、言い足りなかったんだろ。許してくれって、いっぱい色んなこと書いてきてる。亜佐実も」
的野はすぐに返事を打ちだした。
おだやかな横顔をみていれば、もう気に病んでいないことはよくわかる。的野はふたりのことをとっくに許しているのだろう。
けれど雪史にして見たら、ふたりのしたことは、簡単に許容できるような内容ではなかった。
話しあいの経緯を見ていなかったせいもあるのだろうが、まだ少し納得できないものがある。
自分はどうやら、的野のことに関しては、ほかのことよりも強情になるらしかった。
「……ふたりのこと、許すの?」
問えば、的野はちょっと驚いたような顔を向けてきた。
「許すよ」
当たり前というように答えられて、雪史はその笑顔に気が抜けたようになった。自分の中に残っていた怒りもしぼんでなくなっていく。
「許さないと、……傷つくことになるやろ」
またスマホの操作に戻る。
「俺も、冬次も亜佐実もさ」
手早く送信してしまうと、それでこの話は終わり、というようにポケットにスマホを突っこんだ。
「俺はもう、そういうのはいいんだよ」
雪史に向きなおり、にっと微笑んでみせる。
口元の腫れは昨日よりひどくなっていて痛々しかったけれど、それ以外はえくぼの目立つ、いつもの笑顔だった。
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