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第7話
言葉の少ない情事だった。
店の奥ということもあるし、店長自身が饒舌でないことも理由だった。
上半身裸になり、ズボンとトランクスは片足を脱いだ格好で柴はテーブルに腰をおろしていた。
「っ! んっ!」
店長は口付けが好きらしかった。ずっと唇は重ねたままだ。何度も角度を変え、舌を重ね、熱い吐息とねっとりとした唾液を絡ませ合う深いキスを続けながら柴は全身を撫でられる快感に酔っていた。
胸の突起を唾液で濡れた指先で摘ままれ、捏ね回され、爪で弾かれる。痛みを交えた刺激に体は直ぐ熱を帯び、体の中心にある楔が浅ましく頭をもたげた。それだけではない。先端から透明な蜜が溢れだしていた。
「擦って欲しいか?」
重ね合わせた唇で尋ねられた。答えはYESに決まっている。
「俺、激しく擦られるのスキ」
「そうか……」
店長の指が楔に絡み付いた。だが、その動きは緩慢だった。じれったい。柴は喉を反らせながら動きが速くなるのを待った。だが、店長の指はノロノロと上下するだけだ。
「て、んちょ……もっと、速くして」
「志貴だ」
「志貴……激しく擦って」
舌の先で相手の唇を舐めながら両手をテーブルに突き、大きく股を開く。覆いかぶさる格好の店長はニヤリと笑ってから手を動かした。さっきまでの緩さが嘘のように速い。一気に絶頂へ押し上げられそうな刺激に柴は喉を喘がせた。
「アァッ! イイ! それ、すげぇイイ!」
自分で処理するのとは比べ物にならないくらい気持ちが良かった。勝手に腰が揺れてしまう。店長の手の動きに合わせて柴は腰を浮かせ、ユラユラと淫らに悦楽を求めた。
「ヤ、バッ! い、いっちまう!」
柴がクッと喉を鳴らした瞬間、ピタリと攻めの手が止まった。快感が嘘のように消える。
「し、志貴! なんで!」
「そう簡単にイかせると思うか?」
ニヤリと笑う店長がスラックスの前を寛げた。中から逞しい雄の証が現れる。柴はゴクリと喉を鳴らし、それに魅入った。体の奥底が疼き始める。アレが欲しい。卑猥な欲の炎が胸を焦がし始めた。
「志貴、それ、俺にくれよ」
「なら舐めろ。たっぷりと濡らして挿入できるようにしろ」
淡々と命じる店長に頷いてみせた柴は床に跪いた。店長の腰抱き付き、大きく口を開けて奉仕する。視線を意識し、わざと卑猥に見えるようゆっくりと大袈裟とも見える動きで雄の証を舐めた。
硬くそそり立つ雄の証に丹念に舌を這わせ、浮き出た血管を愛おしそうに見詰めた後で柴はそれを口に含んだ。先端から溢れ出る先走りを味わいながら顔を揺らす。店長を喉まで飲み込み、上目遣いで見上げながら強くそれを吸い、舐め上げる。
「イイ子だ、螢太」
店長の呟きに柴は自分が濡れるのを感じた。
名前を呼ばれた。ただそれだけで体が更に熱くなる。自分は店長に惚れた。ムカツクこの店長のモノになりたいと思ってしまった。
「なぁ……ヤって?」
怒張した楔に両手を添えて口付けしながら柴は懇願した。テーブルの上でもいい。床に組み伏せられてもいい。とにかく激しく犯されたかった。
「後ろを向いてテーブルに両手を突け」
柴は小さく頷いて言われた通りにした。
店長の指が秘所に触れた。柴の秘所は素直にそれを飲み込んだ。そこは既に蕩けていて男を欲していた。それが指先の感覚で店長にも伝わったのだろう。
「イイ感じだな」
鼻で笑われた。
ポンポンと頭を撫でられ、指を引き抜かれた。秘所が喪失感に泣き、蜜を流す。
「志貴!」
それは頭を撫でられたことに対する抗議でもあり、激しい攻めの催促でもあった。
指とは比べ物にならない質量のモノが押し当てられた。
柴はゴクリと喉を鳴らした。来る。久し振りに男を迎え、気が狂いそうな悦楽に酔う瞬間を迎えられる。
「ァァッ!」
必死で声を殺したがわずかに漏れた。
両手をテーブルに突いた柴は激しい攻めに息を止め、身を固くした。
腰を掴まれ、激しく揺さぶられる。これが慰めなのだろうか。何も考えられないようにわざと暴力的とも思える攻めをしているのだろうか。店長の真意は測りかねたが、怒涛の如き悦楽は柴の戸惑い等無視して理性を強引に奪い去って行く。
「しき! し、きっ!」
店長が背中にピタリと貼り付いてきた。耳元に低い呻き声が聞こえる。店長が快楽に酔う声だった。店長も感じているのだ。柴の体に欲情し、獣のように腰を揺らしている。そう思うだけで悦楽の濃度が増す。
「あ、イク! そ、こっ! そのままっ! アァ! お前を、擦り付けて、突き上げて!」
柴は喉を反らせ、体を強張らせた。柴の求めに応じるように雄の楔は激しく、深く、奥を穿って来た。もう、何も考える余裕はない。視界に無数の星が飛び、そして白く弾けた
何度か嬌声を上げることは我慢したが、涙まで堪えることはできなかった。
「フ、ァァァッ!」
「螢太……っ」
静かな店長の呟きを耳にした時、腹の奥深くに熱い迸りを感じた。欲情の証が注ぎ込まれる。
「……すげぇ、カイカン」
淫らな余韻に暫く浸りながら「ヘヘヘ」と笑った柴は店長が離れるのを待った。
呼吸の乱れを整えてからゆっくりと店長が離れた。柴は振り返り、テーブルに凭れて笑みを作った。
「アンタ、最高。すっげぇ、良かった」
「……慰められたか?」
「ヘヘッ、十分じゃねぇけど、それなりに?」
柴は恥ずかしさを誤魔化すように強がってみせた。
殆ど衣服に乱れが見られない店長は「そうか」とだけ短く答えると眼鏡のズレを直し、スラックスを戻した。左側の長い前髪を揺らし、少し表情を取り繕うような様子を見せた後、椅子に腰を下ろした。
「アンタ、カッコイイし、イイ男だ」
「……柴ワンコと違って大人だからな」
「全く、口の悪さが玉に瑕なんだよなぁ」
柴は苦笑した後、真正面から店長の目を見た。
「外科医だったんだって? 優秀だったらしいのに何で辞めたんだ?」
場の空気を読むならもう少し甘い余韻に浸っていてもいいものを、柴は普通なら聞き辛いことを尋ねた。いや、体を重ねてお互いの距離が縮まったと感じたから聞けたのかもしれない。
「……言いたくない」
店長は目を閉じて言った。表情に陰りが差した。その暗さが妙な魅力を感じさせる。
「そっか。思い出したくないことってあるよな」
そう言ってから柴は言葉を続けた。
「アンタが好きだ」
店長と視線がぶつかる。お互いの真意を探り合うような視線が絡み合う。
「憎たらしいしムカツクことがあるけど、俺、アンタが好きだ」
柴ははっきり言った。そして返事を待った。
店長はしばらく返事をしなかった。そして立ち上がると無言で背を向け、店に続くドアに向かった。
「お、おい! 志貴!」
慌てながら柴は返事を求めた。ドアを閉める直前、チラリと振り返った店長は短く答えた。
「医師の恋人は要らん」
パタンとドアが閉まった。
「そ、そんな……」
今、体を重ねたのはどうしてだ、と聞きたかった。本当に慰めるだけだったのだろうか。あれほど熱く口付けを交わし、お互いの熱を感じ合ったというのに……。
「……ムカツク!」
ただ、からかわれただけ。
そんな気がした。
柴はコーヒーが入った紙コップをクシャリと握り潰して投げ捨てると、手早く身形を整えて挨拶もせず店を出て行った。
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