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第2話

「珍しいですね、だいたいムロさんとでしょ、大阪出張」 「あいつちょっと調子悪いんだ、今な」  新幹線で、寝ぼけた顔の課長と段取りを確認する。 「余計なことしゃべるなよ、猿崎」 「なんですかそれ」 「愛想振りまいてりゃいい。返事すんな」  どういう意味だ、と思ったが、はいと頷いておいた。  梅田からタクシーで中之島のホテルに乗り付け、ラウンジで時間を潰し、先方を待った。 「お待たせしてごめんなさいねえ、今日は……あら」 「栄子(えいこ)さん、これウチの若いので、猿崎です」 「あらやだ、こんなのいたのお」  ニコニコと挨拶する小売チェーン経営者の女社長は、ケバいが色気のある女傑だった。さり気ない値踏みの視線に、まいったなと思いつつ、次々広げらていく店舗デザインや什器(じゅうき)のパンフレットの整理に専念し、ニコニコ愛想を振りまいた。 「じゃあ、あとは夜にね」 「はい」  洒落たエナメルのトランクを引きずり、腰の括れたスーツの背中がタクシーに乗って去っていった。 「パワフルっすね」 「あんなもんじゃねえよ」  アラフィフ課長は営業スマイルの張り付いた顔を揉み、「あのひと、酒乱だ。覚悟しとけよ」と呟いた。

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