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第3話
「いいじゃないの〜〜ちょっとくらいさあ〜〜〜」
「いえいえいえいえ」
揉まれている。どことは言わないが。
「おばちゃんはダメ〜〜?」
「あっは、そんなことないですいてっ」
「こいつ彼女持ちなんですよ、あんまりいじめないでやって」
「なによ〜〜、今日だけじゃないいい〜〜、若いうちはもっとね」
危なかった。バーカウンターの照明で輝く女傑は、六十代とは思えぬ妙な色気があった。
「マキくんだってねえ、昔はもっと可愛かったのよ〜〜」
「栄子さん、勘弁して」
あれ、と栄子のラメ越しにチラ見した巻田は、課では見ないような顔で苦笑いを浮かべている。
その後も散々に触られ揉まれ、二人掛かりで栄子をタクシーに押し込み、ようやく解放された頃にはすっかり日付も変わっていた。
「ああ、出るかと思った」
背広を椅子に投げ、ベッドに倒れこむ身に、疲れた笑いが落ちた。
「流されかけただろ」
「ギリでしたね」
元カノの根回しにより、社内で彼女を作るのも難しい昨今だ。合コンのセッティングも断られ続け、セックスレス記録は十日を更新中。
脳髄を巡るアルコールと、疲労のピークと解放感で、頭がふわふわして楽しい。
「あ〜ヤリてえぇ〜、穴があったら入れて〜」
「若いね」
「ふはは。つーか、課長、昔、あのひととやっちゃったっしょ?」
「やってねえよ」
ギリな、と続く声に笑った。
「すげえ上手そうっすね、栄子さん」
「上手いんだよ」
爪がな、と返す課長の含み笑いに、腰が震えた。
「ヤバい、栄子さんで出そう」
「消臭しとけよ。風呂行くぞ」
「枕営業とか憧れるな〜」
「やめとけ、バレたら万年課長だ」
「え? ————あ?」
イけなかった。
壁の向こうから、シャワーの音が聞こえ始めた。
「……そーいうこと?」
巻田はじきに五十。仕事ができないわけではない。それでも昇進の噂はなく、誰もそれを口に出さない。
「済んだか」
「うわ、早っ。無理でした」
「飲みすぎ」
————いいひとだよな、と、なんとなく腑に落ちないまま風呂に入った。
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