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第4話
「来週大阪」
「えっ、マジですか」
次の大阪出張も、課長に同伴した。二度目の席で目出度く契約は成立し、再び栄子を中心に、ホテルのバーで祝杯を上げた。
「かんぱーい!」
「そこは、あはは」
ちーん! という悪ふざけから始まり、執拗な下半身弄りに、もうどうにでもなれという心境で付き合った。前回の課長の爪というのも少々意識し、余計に大変な状態になった。
「猿崎、ちょっと頭冷やしてこい」
「はい〜」
「あらあ、あたしも行こうかなあ〜」
「栄子さん、おれ置いて行くなよ」
「え〜?」
腰を抱き寄せた課長に、栄子は満更でもなく身を預けた。猿崎はその隙に脱出し、レストルームで顔を洗い、落ち着きのない下半身に辟易しながら時間を潰して店内に戻った。
顔を覗かせたカウンターに、二人の姿はなかった。
「お連れ様なら帰られましたよ」
「あ、どうも」
バーテンに教わり、店を後にした。頭をかいて部屋に戻り、巻田が鍵を持っていることを思い出して途方に暮れた。最悪、二人でどこかにしけ込んだのなら待っていても仕方がない。
財布と相談し、エレベーターに向かった足で、課長と鉢合わせた。
「悪い、タクシー乗せてきた。ムロが上手いんだよな、あのひとの扱いは」
「そうなんすか」
「おまえはダメだなありゃ。次は断るぞ」
ダメと言われて、カチンときた。
「ダメってなんすか? 栄子さん、ご機嫌だったでしょ?」
「おまえは色気出し過ぎだ」
「そこがいいんじゃないですか」
「あのひとは自制が効くタイプにはあそこまでやらないんだよ。あれでチェーンの総合経営者だ、おまえ、ナメられてんだっていい加減気づけ」
酔いのせいでなく顔が熱くなった。怒りと羞恥と憤懣でせっかくのホロ酔いが不快だ。
「栄子さんの連絡先、教えて下さいよ」
「なんで」
「なんでもいいっしょ? 課長、知ってんじゃないですか? ほんとは寝てたんじゃねえの?」
「おまえなあ……」
鍵を開けた分厚い背中が、苛立ちを露わに振り向いた。
「さっさと入ってシャワー浴びて頭冷やしてこい、バカが」
「今日はセーブしてましたよ、そんなに飲んでない」
「飲んだ飲んでないじゃないよ、頭冷やせって言ってんの」
「栄子さんと寝てきますよ。そんで新規取ってくりゃ文句ないでしょ?」
「…………」
課長の目が据わった。
別に怖くもない。課長の方がチビだ。腕力だってこっちはアラサー、向こうはアラフィフ、負けない自信ならある。
「頭冷やすって、意味わかるか、猿崎」
「さあ」
「抜いてこい、アホ」
相手にされなかった。
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