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第9話

 無事に栄子をタクシーに乗せ、部屋に戻った。 「めっちゃ触られましたよ、股間」 「あれ無意識」 「マジすか」 「お疲れさんだ」  備え付けの冷蔵庫からビールを渡され、猿崎は礼を告げた。大して飲んでいないことはバレていた。  風呂に向かう巻田を見送り、スマホを取り出した。 『化け物から貞操は守った。頼む、許して』  今は一方通行のラインだ。なんとか半勃起で耐えた賢い分身を揉みつつ、暫く待ったが、既読もつかずにがっかりした。 「お先」 「早っ」  スマホを鞄に投げ、シャワーを浴びて部屋に戻った。  巻田はホテルの浴衣でベッドに転がり、タブレットを弄っていた。 「課長が起きてるすげえ」 「今日はラク出来たからね」 「成長したっしょ」  日付を跨がず部屋に戻れたのは快挙らしい。  一息ついて鞄からスマホを取り出し、彼女の既読スルーを確認し、溜め息を吐いた。  疲れることは後回しで、ベッドにダイブする。 「あ〜、セックスしてえ〜」 「猿だね」 「だって勝手に勃つんすよこれ、どうしようもねえって」  怠いし眠い。疲労と達成感は心地よい。しかし、栄子の爪を思い出してムズムズするのは今はちょっと嫌だ。 「課長のタブ、エロいのないっすか」 「ねえよ」 「もしかして仕事してます?」 「おう、おまえ今日うるせえな……スマホいじってろよ」 「ふはは」  スマホは触りたくない。虚しくなる。 「課長ー、結婚っていつでした」 「黙ってマス掻いて寝ろ猿崎」  冷たい。  勃っているのでマスを掻く。 「課長ー……」 「……」  無視された。  瞼が重く、左手は動き、頭はふわふわしている。 「奥さんにも前戯すんの?」 「————」  目が怖い。  しかし楽しい。巻田が感情を見せることは滅多にない。 「なんかズリネタくださいよ〜」 「おまえ……ひとのカミさんで何すんだよ」 「奥さん年下? 上?」 「上」  五十代は少々厳しい。顔が栄子になってしまう。 「あ、課長のとこ娘ちゃんじゃね? 確か中学生」 「……」 「あっ、もう高校生だ、でしょ? うわ、見てえ〜!」  隣のベッドのおっさんが、むくりと起き上がった。 「課長、写真とか」 「抜いてやるよ」 「うわうわうそ!」 「うるせえんだよ、酔っ払いが」  本気で怒っている。  脂の乗った中年に尻に乗られ、猿崎は悲鳴を上げて股間を死守した。 「すんませんすんません寝ます! 課長、か、うわわわ」 「ケツ出せオラ」 「ひい!」  浴衣を捲られた。驚いて尻を振った隙に、ガードが緩んだ息子を後ろから奪われた。  その触り方は————。 「栄子さーん!」 「効くだろ?」 「つうか冗談じゃね、うわわ、ちょ、なん」  ボクサーパンツの中に、なにか入れられた。 「か、か、か」 「ひさびさに興奮すんなあ……」  課長がパンツの中に入っている。というか勃っている。なぜだ。  生々しい熱で尻を擦られ、猿崎はシーツを握って暴れた。 「マジ無理、マジ無理でしょ、かちょ、ギブ、うっ」 「動くなよ……力抜け、猿崎」  穴に、課長がフィットしている。まさか本気か。酔っているのか。  首筋で笑う息の荒さに、全身の毛が逆立った。 「————ム、リ……っ! いたた……っ、い————」 「ゴム持ってるか」  なんてことだ。 「いいか、無しで」 「よく、ねえッ、……! う……っ」  浴衣の襟を引かれ、肌を吸われた。熱いぬめりに猿崎は怖気立った。震えた隙に、押し込まれ、開かれた。 「うあぁ————っ」  入っている。男に、犯されている。ショックでなにも考えられない。痛みと恐怖で血の気が引いていた。握られ、扱かれ、開かれ、舐められた。腰に力が入らない。 「うっ————」 「泣くなって……おまえ、わりとソソるな」  そんなバカな。 「……リップかハンドクリームか、なんかもってるか?」  猿崎は鼻を啜り、無心で頷いた。  背中から重石が退き、圧力が消えた。しかし気力が尽きて動けなかった。確かにこれはレイプだ。彼女らは、怖かったのか。 「どれ」  顔の横に鞄を置かれた。猿崎は鼻を啜って鞄に手を突っ込み、リップとコンドームの箱を取り出し、背中に投げた。 「おまえなあ……アラサーが、でかい図体で泣くなって」  泣いてない。鼻が出ただけだ。  嗚咽の頭を叩かれ、猿崎は恥じ入った。 「……私生活改めます、課長」 「おう」 「課長の娘ちゃんで絶対抜かねえし、彼女に謝って土下座してヨリ戻して大切にうはあああ」 「メントールかこれ。ま、いいか」  よくない。 「おまえ尻は汚ねえな」  わりと傷ついたが、そこに見世物的要素はない。 「つーかマジやめたほうがいいっつーか中のほうがっ、汚ねえっ、ぬぅぅぅ」  汚い穴にリップを突っ込まれた。ズコズコと前後するそれに排泄感がこみ上げ、猿崎は一人焦った。 「あ、折れた」 「あはっ、うあ!」  ぬぷっと入った指に中を探られ、簡単に侵入を許している自分の尻に狼狽した。 「奥入っちゃったな……いいか、溶けりゃちょうどいい」  全くよくない。腹が微妙にゴロゴロして、冷や汗が噴きだしている。 「緩んできたぞ」 「うっ」  それはうん。 「ひいいい」  血の気の引いた尻を二本の指で開かれ、なにか出るかと思った場所に太い指で栓をされた。そのまま涼感の粘膜をズボズボ擦られ、容赦ない熱さと奇妙な感覚でパニックになった。 「あっ、ひ、そこっ!」 「ここ?」 「あぐっ……ひっ、あひ…………っ」  ぐにぐに揉まれ、尻を振った。 「うっ、うひ……っ、いっ、いひい……っ————あひい……っ」 「これ前立腺」  噂のアレか。猿崎は学んだ。風俗とは無縁のモテ男の白い顔は、破裂しそうにむくんで真っ赤になっていた。 「ああっ————ああっ…………んんっ、んふっ、はああ……っ」 「すげえなあ」  すごいのは課長の指テクだ。知りたくなかった上司のテクニカルな前戯術にドン引きし、萎えて起きて忙しくジンジンしているものを掴まれ揉まれて身悶えた。尻を振って感じ、泣き所を擦られて絶叫し、入れるぞと声をかけられ、えっ、と気の抜けた声を返した。  抜けた指に替わり、熱く大きなものに尻の穴を広げられて、猿崎は固まった。 「息しろ、息」  言われるまま、細く息をした。それ以上はなにも出ない。声も出ない。  メリメリ、と肛門が開かれていく。痛い。熱い。怖い。————裂ける。骨を広げられていくような絶望感で、下半身の感覚が失せていった。冷えて痺れた内側で、課長の一部だけ存在感が肥大している。内側から広げられた内臓の、限界まで開いたそこが更に裂けていく恐怖で、奥歯がカタカタと鳴っていた。冷や汗が止まらず、指一本動かない。 「ふんっ」 「ひぃ!」  ふんっ、じゃない。ズンと奥まで犯され、猿崎はショックで開いた。体のどこにも力が入らず、シーツに胸をつけたまま、尻が痙攣を起こしていた。わけのわからない状況で尻だけが熱く、めちゃくちゃに感じて顔に火がついた。 「うは、あぁ…………っ」  全身で戦慄き、尻で巻田に絡みついた。ヨダレを垂らして喘ぐ間にも体を揺すられ、ひくひく蠢く場所で始まったピストンに、猿崎は我を失った。 「ああ、ああ、ああ……っ」  ヨダレも涙も勝手に出てくる。熱くて重い暴力の塊が、尻の中で動いている。巻田と繋がり 溶けた体で、猿崎は揺れる声を上げ続けた。 「ああっ、ああ、ああ、あ、あはっ」 「素質あるな……っ、猿崎!」  褒められ、尻が悦んだ。潰れかけた腹を持ち上げられ、前を揉まれ、猿崎はビクビクと尻を跳ね上げた。絞った中で巻田を感じ、溢れる唾液で狂おしく喘いだ。 「ああ……っ、課長ぉ……っ」 「う……っ」  重なる腿が震え、巻田が唸った。大きく抜かれ、ズンと打ち込まれた。 「あひっ!」  ひどい声が漏れた。歴代の彼女にだってこんな声を出させたことはない。続けざまに突かれ、猿崎はシーツに顔を擦りつけて意識を飛ばし、ひっ、ひっ、と啜り泣いて、巻田の熱を受け止め続けた。

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