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第8話

 二十年も待てない。  今だって、福田への恋心と性欲で気が狂いそうだ。 「お忙しいところすいません、そちらの福田さんに先日飲みに行った時の忘れ物を返したいんですが、連絡がつかなくて」  福田の勤め先とは付き合いがある。翌日、職場の事務所から恍けて電話をかけた。すでに退職していることは織り込み済みだ。スマホにももう繋がらない。それでも、なんとかして福田と繋がりを保ちたかった。ただ、ただ、福田に会いたくて堪らなかった。 『福田、というものが、弊社に在籍した記録はございませんが、お間違えでは』 「えっ!」  木野は絶句した。  店の担当である宍戸に電話を替わってもらった。宍戸は福田を知っていた。ただし開発部の客分とあって詳しいことはわからず、福田を斡旋した外部団体に問い合わせを促された。  改めて医療器研究学会なる団体に連絡を取った。同じく事情を説明し、木野は陰気な声の中年に怪訝な声を返された。曰く、団体に籍を置く『福田』は還暦過ぎの賓客で、巷に出歩くような人物ではないという。 「おたく、誰かに騙されたんじゃないの?」  呆れた口調で電話を切られ、木野は途方に暮れた。

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