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第11話

 ゲイバー通いは、すっかり病みつきになった。  地味で目立たない、『ダイヤ』を名乗る貧相なアラサー男が、自分を捨てたダンディな中年男を探している。  誰の口の端に上ったか、木野がダイヤと知れれば面白半分に声を掛けられ、福田検定が行われた。その半数は遊び相手を探すもので、木野は期せずして相手を選べる立場となった。 「きみがダイヤくん? おれどう? 福田だけど」 「惜しいですね」 「お、神田さん、好感触〜!」 「神田じゃないですか!」  カウンター席で笑いあう。  男らしく若々しい色気のある神田は、木野好みの四五歳でセックスの相性も良かった。本職はライフセーバーといい、冬場の今は近場のジムでインストラクターをしているそうだ。 「こいよ、鍛えてやるよ」 「マジですか」 「本気でやれば締まるよ、ここも」 「あっ」  神田は性欲が強かった。キスは無しでと、こっそり告げた木野に、無しでいいよと笑ってくれた。時折遠くを見る神田の、掴み所のない眼差しは少し、福田に似ている気がした。  翌週からジムに通い始めた。神田のようなキレキレボディは無理にしても、締まりのないヒョロヒョロボディとはおさらばしたかった。そして万が一福田から連絡があれば、すっ飛んで行って今度こそ、惚れさせる。

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