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第12話
体が締まって自信がついた。バーでの評判も良くなり、精悍になったと言われた木野は、密かに福田に感謝した。
神田は関係を持って一年ほどで、ふらっと姿を消した。恋人を追ってタイに渡ったと噂で聞き、木野も福田に会いたくなった。
「あのぉ」
「はい?」
「ぼく、福田というんですが……」
木野はリキュールを吹いた。カウンターの隣席に自信なさげに腰掛けたのは、リクルートスーツを身につけた年若い青年だった。
「ダメ、ですか」
「うーん」
笑いが止まらない。福田の募集は四十歳以上だ。
「福田って本名?」
「いえ、その……フグタです。本名」
「ヒィー!」
カウンターの内側で、ママが引きつけをおこした。周囲が堰を切ったように爆笑に湧き、フグタ青年は真っ赤な顔でスーツの肩を縮め、頭を下げた。
「すいません! ダメ元でした、ダイヤさんは優しいって、聞いて」
「え?」
どんどん小さくなっていく、地味で素朴な青年の姿が、昔の自分に重なった。
「ぼくでいいの?」
「えっ」
瞼に浮かぶ顔が、優しく笑っていた。
「ぼくでよければ、試してみる?」
「あ……」
お願いします!
わなわなと唇を震わせ、真っ赤な額をカウンターに打ち付けた青年を、木野は、かわいいと思った。
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