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第9話【四日目】

昼食をとり出発までの間、庭で遊ぶ息子を眺めながら、縁側で祖父と農具の手入れをしていた。 一息(ひといき)ついて壁掛け時計に目をやると、もう14時だ。 「圭ー!そろそろ行くぞー!!」 返事が無い。ハッとし、あたりを見渡したが息子の姿が見当たらない。 そう遠くまでは行っていないだろうと気持ちを落ち着け、とりあえず庭を一周する。畑や倉庫の中、家の至る所の扉を開け放ち探した。 徐々に不安が募ってきた。 山にでも入られたら大変な事になる。 2階の窓から外を見下ろし、目を凝らしてしいると、隣の家の窓が開かれた。 「道隆ー!!圭が見当たらないんだけど、どこかで見なかった??」 「そこの草むらで遊んでるのを良く見るけど、探してみた?」 指が示す方向を見ようとしたが、実家からは、たまたま死角になっていて見えなかった。階段を駆け下り裏庭に出た。 背丈よりも高い草が、壁の様に立ちはだかつている。その一画に草が踏み倒された跡があり、小路(こみち)が出来ていた。 草を掻き分けながら、しばらく進むと3畳間ほどの小さな空間が現れた。その中で息子は、気持ち良さそうに寝ていた。 「こら!こんなところで、寝たらダメだろ!」 たまらず、大声で怒鳴り散らした。ビックリして息子が泣き叫ぶ。後から、道隆もやって来た。 「あらあら、素敵なお部屋。私もご一緒して良いかしら?」 道隆は息子の涙を拭い、手を取るとゴロンと仰向けに寝そべった。 「なにやって…」 「ほら、拓也も。気持ち良いわよ。」 ちょうど川の字なって寝転んだ。踏み倒された草のベットがひんやりして気持ち良い。真夏の強い日差しが生い茂る草の壁に(さえぎ)られ、青い空だけが真上に映る。 「ゆめみた~い。こうやって、ぱぱとままのあいだでねるの、あこがれてたんだぁ~。」 さっきまで泣いてた息子が、満面の笑みで言った。道隆と目が合い、心臓が跳ねる。たまらず、目線を反らした。 「けいちゃん、今度うちに泊まりにいらっしゃい。また、三人で寝ましょう。」 帰宅してからも、青い草の香りが、いつまでも身体にまとわりついた。 こうして、長い長い四日間が終わった。

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