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第9話

 服の中に差し込まれた彼の手が、ぴたりと止まる。私は天井を見つめながら、黙って次の動きを待った。ゆっくりと上体を起こした彼に自然と目が行く。随分と鍛えあげられ、整えられた躰。まるで精巧に造り上げられた彫刻のようにしなやかで美しい。今までに見たどんなものよりも甘美で清潔で、あまりに魅力的で、彼が首を傾げるその些細な所作でさえ、私を見惚れさせるには充分だった。 「今、なに、考えてる?」  頭上から降ってきた声に視線を寄越すと、前髪を掻き上げた彼が自身の唇を舐めた。舌にはめ込まれたピアスが鈍く光り、首筋に触れた不自然な冷たさはこれだったのかと、そんなことを思った。 「いえ、何も。少しだけ」  考え事を。そう答えている間にも、彼は私の着ていたシャツのボタンを慣れた手付きでひとつずつ外していった。 「考え事って」  彼の前に貧相な身体をさらけ出し、肌が外気に触れて寒気を感じた。彼は再び丹念に舌を這わせ、生ぬるい刺激に息を詰まらせた。 「………どうしてあなたが、私にこんなことをするのか、とか……………」  彼の肩に触れ、求めている快楽には繋がりそうもない極弱い刺激に耐えていると、恐らく笑ったであろう彼の吐息が脇腹を擽った。 「なんでって、あんたがそういう目をしてるから」  固い指先が肌の上を滑り、舌が触れ、甘噛みされて、彼の唇が上半身のみを何度もしつこく行き来して、私の吐息も次第に熱を帯びていった。彼の言葉に疑問を持つも、それを声にすることができなかった。したこところで、すべてはふたりの熱に輪郭をなくしてしまうだろう。舌のピアスが胸の突起を擦り、淫らに腰が震えた。 「触って欲しい、抱いて欲しいって目が言ってる。ずっと前から」  ずっと前、それはいつのことだろうか。私には分からない。渇いた喉が潤いを求めるのと同じように、それは本能的に、私の身体が彼を求めているとでも言うのだろうか。そんなもの、私には、分からない。

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