わざと貪るようにして彼の唇に溺れていると、彼は私の背中を撫でながら先ほど吐き出したばかりの中心を再びゆっくりと扱きはじめた。 「あっああ、まって………っ……まだ、ああっ………！」 　敏感になったそこを刺激されるたびに内股が震え、しばらくするとゆるりと頭をもたげ始めた。彼は息を荒くしながら舌なめずりをすると、精液に塗れた手で更にその奥へと忍び寄った。 「ここ、使ったことは？」 　ここ、と彼に奥の蕾に触れられて、緊張から思わず腰を引いた。はじめから知識はあったし覚悟もしていたけれど、未知への恐怖は拭えない。 「使ったこと、ない？」 　至近距離にある彼の唇が、話す度に熱い吐息と共に私に触れる。私は勢いよくかぶりを振った。他人はおろか自らでも、そういった役割で触れることなどない場所だ。彼は手に残る精液を塗り込むように入り口へ指を押し付けると、何度も指を行き来させて様子を窺い、そうしながらも唇での愛撫も忘れなかった。緊張と不安で、彼の屈強な肉体にしがみ付く。大きな手が汗の滲む背を優しく撫でて、力を抜くよう促した。 「大丈夫？　キスする？」 　そんな緊張感のないことを聞かれ、それでも考えるより先に頷いて唇を重ねた。好き勝手に動く舌を追いかけることに集中して全身を彼に預けてキスに夢中になっていると、それを上回る強い異物感が急速に身体中を駆け巡った。 「まず一本、きついな……………」 「ぃ、あ………っあ、はあ………っ」 「痛い？」 　息を詰めながら首を横に振る。痛みはない。けれど異物を受け入れるようにできていないそこは、とにかく強烈な違和感と呼吸を忘れてしまいそうなほどの息苦しさがあった。身体は勝手に彼の指を締め付け、そして押し出してしまおうとする。 「ゆっくり入れるから、息吐いて」 　入り口の皺を丁寧に伸ばすように、彼の指がゆっくりと穴を広げていく。それに合わせて息を吐くけれど、上手くできているのかなんてちっとも分からない。額には汗が滲み、それでも彼は焦らず、私の様子を見ながら合間に何度もキスをしてくれて、少しずつ慎重に中へ侵入していった。 「………第二関節まで入った。わかる？」 「あ、ま、まだ………」 「全然まだまだ。………ローションとかない？」 　あまり中を刺激しない為か、今までと違い彼の動きは少ない。 「そんなの、ありません」 　想定などしていない、あまりに突然のことだったのだ。そういうものを用意しているほうが稀ではないか。それともそれを持っている人とばかり、彼は行為に及んでいたのだろうか。 　十代でない、けれど彼は高校生だ。口先だけの愛の確認、慣れた手付き。不意に現実へ引き戻されて、この行為自体、嘲笑すら漏らしてしまいそうなほどに馬鹿馬鹿しく思えてくる。 「また、考え事？」 　私の変化を彼は目敏く見つけ出し、しかし私は静かに首を横に振った。私ばかりが彼を求めているようなこの構図が、忌々しく気に入らなくなった。身体の熱は瞬く間に失われてしまった。 「……………したくなくなった？」 　彼は一体、何者だろうか。蕾に触れていた指を離し、私の腰に腕を回して瞳の奥を覗き込んだ。まるで少年とは思えない。私より四つも五つも（或いはそれ以上）年齢を重ねているように思えてならない。この妙な余裕は、どこから生まれてくるのだろうか。 「いやになった？」 「……………わかりません」 　答えて、彼の腕から身を引いた。 　本当にわからなくなってしまったのだ。最初から最後まですべて。この行為に及ぶまでのひと時と、私と彼の言葉の意味も、激しい口付けと丁寧な愛撫も、すべて。 　私は不貞腐れた子どもみたいに、ベッドの隅に身を寄せて黙り込んだ。彼は暫く私の様子を眺めていたけれど、期待外れだったのかそれとも飽きてしまったのか、これ見よがしに大きなため息をついて寝室を後にした。 　これでよかったのだ、と思う。身体の負担を考えても、社会的なことを考えても。私は臨時採用と言えど教師で、彼が十代でないにしろ生徒だというのを思えば、互いにとってこれでよかったのだ。 　壁を隔てた先のリビングでは衣擦れの音がして、そして彼は黙って家を出て行った。分かっていたじゃないか、と自らに言い聞かせた。実質のない口先だけの彼の言葉を、まさか年甲斐もなく真に受けたわけでもないだろう。彼が出て行ったことを悲しんでいるなんてそんなこと、絶望に似た想いなんて、抱える必要もない。私たちの間には何もなかった。はじめから何もなかったのだ。