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第17話

「あ、っぁあ」  彼はしっかりとタイミングを見極め、身体の硬直が緩んだ一瞬の隙をついて再び腰を押し進めた。またも襲い来るきつい圧迫感に押し上げられた内臓が口から飛び出してしまいそうだ。繋がっている部分がじんじんと痺れ、浅い呼吸を繰り返すたび後ろを締め付けた。そこから彼は長く大きく息を吐き、指にはめていた分厚いリングをすべて外して床に放り投げた。フローリングに落ちたそれらは重量感のある音を立てて転がり、そして軽くなった両手の指を鳴らして更にウォーミングアップをするように手首を回すと、私の手にその指を絡めてベッドにぬい付けた。 「ゆっくりやってやりたいけど、もうそろそろ………結構、俺も限界」  互いの胸を密着させながら、彼は珍しく甘えた声をして頬を擦り合わせた。 「息、吐いて」  彼は間近で私を見、肺いっぱいに息を吸い込ませ、それをゆっくりと吐き出させた。もう一度、と言う彼の言葉に従って大きく息を吸い、それを吐き切ると同時に彼は一息に腰を押し進めた。 「ひ、ぁ………ッ!」  歪な輪郭をした悲鳴じみたものが喉を掠める。肉壁を割り開き身体を真っ二つに引き裂くように、熱い滾りが私を貫いた。背を仰け反らせびくびくと震え、爪先は宙をかき強い電流に襲われたように激しい痺れが全身を一気に駆け巡った。 「………きっつ、ああ、やべえ。ごめん、大丈夫?」  熱を持った結合部が強く鼓動し、胸の詰まる苦しさにシーツを蹴った。 「は、ああ、くるしい、久留須くん………っ」 「うん、ごめん。すげえ、喰い千切られそう。………はあ、大丈夫? 痛い?」  序盤には十分にあった彼の余裕もいよいよ底をつき始めたのか、絡めた指を更に強く握りしめ、全身を汗で濡らして息を乱した。私を気遣う言葉をかけてくれてはいるけれど、その返事をする余裕も、そして返事をしたところで彼がそれを聞き入れてくれる余裕も、恐らく互いに持ち合わせていなかった。 「息、整えて」  彼は私の首筋を甘噛みし、それから鎖骨までを辿り意識を分散させる。互いの呼吸を合わせるように努めると、はじめは異物の侵入を拒んでいた後孔は少しずつ解け受け入れるように、柔らかな肉壁は彼をあたたかく包み込んだ。  しばらく動かずにお互いの熱を感じあい、息が整ったところで目の前の存在を確かめ合うように見つめあった。唇には触れず鼻先だけを触れ合わせ、ただただ無言で。外はいまだ穏やかな雨が降り続き、分厚く湿った空気がふたりを優しく抱きしめた。  少し意識してわざと中を締めると、彼に与えられる激しく鮮烈な刺激を思い出し、意図せず甘い声がもれた。彼は眉を下げて苦笑し、少しずつ腰を揺すり始める。圧迫感はあるものの、彼と繋がっていると意識しただけでそれは新たな快楽を生み出し、吐息が甘やかなものに変わると彼の動きは次第に本能のままに動きはじめた。 「あっあっ、ん………っふぁ、ああぁっ」  自身から発せられるあられもない声をどこか遠くで聞きながら、抽挿されるその部分にだけ神経を集中させ、私は恍惚に目を閉じた。

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