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第18話
欲しかったのだ。
思えば彼があの学校へ編入し、一目見たときから危うい魅力は既に感じていたのだ。生白い顔に笑顔を貼り付けて、しかし目は少しも笑っていないところも、つまらなそうな瞳を孤独に揺らし屋上で悠々と煙草を吸う姿も、ひとりコンビニの前で佇む表情も、今目の前で劣情に身を熱くする彼も。底なし沼のような彼の魅力に、私は疾うの昔に溺れていたのだ。
表情を失った能面のようなそれも、嘘の笑顔も、ピアスだらけの顔を歪ませてつくる微笑みも、きっと私しか知らない。私だけが見つけだして、私だけに見ることを許された権利なのだ。知らぬ間に彼に引き寄せられてしまったのだ。きっとそれは彼も同じで、だから今夜、彼はここへ来た。偶然私を見つけて、理由も分からぬまま追いかけて押し入って、そしてセックスをしている。簡単じゃない、私の望んだセックスを。
「また考え事?」
上から降ってくる不機嫌な声で我に返り、瞼を持ち上げると悪戯に頬を噛まれた。目の前にいる彼は声色と同じく表情も不機嫌そうに歪め、奥に届くほどの勢いで激しく腰を打ち付けた。
「ぁああ!」
「あんた、こんなことしながら何考えてんの」
まるで拗ねているみたい。がつがつと抉るように奥を狙い、思考の端々に点在していた余裕を根こそぎ奪われた。
「あっ、ん、ああ、あ、あなたのっことを………ぁ、考えて………ん、あっああ、」
責め苦のような快楽に悶えながらありのままを答えれば、彼は一瞬だけ目を瞠り、そして至極嬉しそうに口角をあげた。
「そんなの考えなくても、目の前にいるだろ」
麻薬のような彼との行為に眩暈がする。唾液で顔を汚すほどキスをして、彼の手が私の中心へと移動し、たった一度の行為で私の弱いところを知ってしまったのか、彼は良いようにしか触らない。一定のリズムで続いていた抽挿が途絶え、私の中心を握り直すと彼はおもむろに腰を引き、親指で先端の割れ目を刺激しながら自らの熱い滾りを勢いよく突き入れた。
「ああぁぁぁああああああ!」
逃れようのない快楽に恐怖まで覚えてしまうほど。身体を弓なりに反らしながら、開きっ放しの口からは甘く甲高い嬌声が絶え間なく零れ続けた。すぐに達してしまいそうになるのを、彼が根元をきつく掴んでいる為にそれも叶わない。強い快楽の渦が全身を蝕み、容赦なく襲い来る刺激に脳は真っ白に染め上げられ、はしたない姿を惜しげもなくさらして彼の下で激しく乱れてみせた。もう、どうなってしまっても構わない。
「ヒナギク」
唐突に呟かれたそれに、胸が切なく鳴る。
「は、すげえ締まった。名前呼ばれて感じた? ―――雛菊」
「あ………あ、ああ……………」
ただ、名前を呼ばれただけだ。たったそれだけなのに形のいい彼の唇がそれを呟けば、途端に甘美で淫猥な響きを孕んでしまう。無意識に蕾を締め付けた。彼の形を記憶するように、何度も何度も。
「雛菊」
本能の赴くまま、私たちは自由に求めあった。彼は依然私のいいところしか攻めないし、感じ入る私の中で彼のものはどこまでも大きく成長し、更なる快楽を上乗せした。口の端から唾液が垂れるのも厭わない。どれだけ私が汚れても彼の手によってそうなるのなら、きっと彼は、それを「美しい」と悦んでくれるに違いない。
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