19 / 64

第19話

「あああっあっぁあ!」 「雛菊、雛菊」 「あッ、だめ、それ………あぁぁああああ!」 「雛菊、すげえ可愛い………ほら、俺の名前も呼んで」 「んゃっああ!っは、ぁんッあ、た、蛇岐ぃ………!」 「ああ、やべえ、すげえ良い、雛菊………雛菊……………」  彼の言うまま、望むまま。いつまでも彼に求められていたい。名を呼びあうだけの稚拙なことにも特別なものを感じてしまうほど、私は彼に溺れている。呼吸も忘れてしまうほどに。  激しく腰を打ち付けながら彼も浮言のように私の名を呼び続け、根元を抑え込んでいた手を開放すると竿を扱かれた。怒涛の勢いで襲い来る射精感にひと際大きく喘ぎ、彼の背中に爪を立て、私の所有した証になればいいとたくさんたくさん傷をつけた。彼は痛みに顔を歪めることもなく、ただひたすらに私だけを見つめている。 「ああッ、だめ、だめっ、も、イく………っ蛇岐、たき………!」  唇を寄せてくる彼にしがみ付き、一気に絶頂までを駆け上がった。間近で聞こえる息遣いも荒く短くなっていき、締め付けられた中のものが激しく脈打ち繰り返される抽挿は激しさを増し、短い彼の呻き声に堪らない気持ちになった。 「ああ………ほら、イッて、雛菊………!」 「ッひ、あ、ああああああぁぁ!」  ひと際大きく最奥を強く穿ち鈴口を引っ掻かれ、私は勢いよく射精した。涙で霞む視界の中で汗にまみれた彼が甘く微笑むと、私より少し遅れて腹の中に子種を撒き散らした。 「は………ぁん……んっ……………」  達した後もしばらく彼は私の中に居座って、ゆるく腰を揺さぶって残滓までをも中へ注ぎ込み、啄むだけのキスをして、肌を密着させたまま心地よい倦怠感を共に味わった。ゆっくりと呼吸を落ち着かせていると、彼が少しだけ腰を浮かせて中のものをずるりと引き抜き、その感覚に身震いし思わず熱い息を漏らした。 「敏感」  そう笑って唇にキスをおとすと、彼は唐突に立ち上がり全裸のまま寝室を後にした。  ひとり取り残され、空っぽの頭で離れていくのは寂しいと感じた。どこに行ってしまったのか、彼を追うため起き上がろうと身体に力を入れれば、腰に走る鈍い痛みに息を詰めた。腰は重く後孔はじんじんと痺れ、挿し込まれた異物感をありありと残しながら結局立ち上がれずに寝返りをうつだけに留めた。  外を眺めると、窓に張り付いた雨粒が街灯に照らされきらきらと輝き、室内に転がっている彼のシルバーリングまでをも煌めかせた。それを見るともなく呆然と意識を漂わせ、手持ち無沙汰で星とリングの数を数えていると、寝室の扉が静かに開いた。 「水飲む?」  現れた彼は清々しいほどに無表情で、片手にミネラルウォーターの入ったボトルを持ち私の枕元に腰かけた。 「起きられる?」  訊かれて、無言で首を横に振る。喉の渇きは確かにあった。けれどそれ以上に身体が潤い満たされて、他の何かなんてもう、無色透明の液体でさえ入る隙間のないほどだった。 「………飲ませてほしい?」  彼の艶っぽい笑みが薄明りに照らされて、痛いほどに心臓を鷲掴みにされた。一瞬にして体内は渇き、私を構成するすべての細胞が彼を欲し、即座に手を伸ばして求めれば彼は水を含んだ唇を私に近付けた。咥内で温められた水が気持ちよく喉を通り、もっともっとと舌を伸ばす。彼はまた水を含み、私に与える。それを何度も繰り返した。

ともだちにシェアしよう!