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第22話

 私たちはベッドに戻ってもう一度じゃれてもみくちゃに絡み合って、身も心も満たされたまま彼の腕に抱かれ引き込まれるように眠りについた。翌朝、携帯電話のアラームに起こされて目を開けると彼はきちんと隣で寝ていて、しっかりと私を抱いていた。  初めて見る彼の寝顔は情事のときとは違い、少年の匂いを多分に残していた。昨夜まで耳にぶら下がっていたたくさんのピアスは寝ている間は外しているらしく、ふと耳朶を見てみればピアスホールから向こう側の景色が覗けてしまって驚いた。派手な金髪、ほとんどなくなってしまった眉、吊り上がった鋭い目と顔中を飾るたくさんのピアス。こんなに凶暴な見てくれなのに、実は気遣いもできて優しいセックスをする人だと知っているのが、この世界中で私だけだったらいいのに。そんなことを願った。きっと有り得るわけないのだろうけど。  いつまでもこうして彼と微睡んでいたいけれど、仕事に遅刻してしまうわけにもいかない。静かに彼の腕から抜け出そうにも、力の抜けきった腕は一本でさえ重たくて、更には少し身じろぎする度に下肢に痛みが走り、それに加えて彼が尚更強い力で抱き締めるので余計に身動きがとれなくなってしまった。仕方なく彼の肩を揺さぶれば、細い目を静かに開き「朝?」と私に問いかけた。 「もうすぐ六時。おはようございます」 「………そう」  起き抜けの、乾燥して掠れた声は艶やかな色気を孕み、そんな些細なことにも馬鹿みたいに胸を高鳴らせた。  寝返りを打った彼の腕からようやく解放されて、いやに時間をかけて身体を起こした。そうしなければあらぬところが痛くて仕方がなかった。彼は薄く目を開けたまま窓枠に囲われた空を見つめて、眠たげに全身を弛緩させていた。 「まだ眠い?」  訊くと、いや、と返事がくる。 「久々によく眠れた気がして」 「今まで寝られなかったんですか」  思い起こせば校内で見かける彼の顔色は、あまり良いとは言えなかった。彼の肌がもともと青白いから、よくよく観察しなければそれに気付かないけれど。 「今までも寝てたつもりだったんだけど………なんか、寝たって感じする。すっきりしてる、細胞が全部入れ替わった感じ」  妙な言い回しだけれど、それが妙に腑に落ちた。実際のところ睡眠時間はたった三時間ほどなのに、私も今朝は妙に目覚めがよかったのだ。潤った、満ち足りた目覚めだった。  ベッドを出る私の後に続いて彼も身体を起こし、目が合うとどちらからともなくキスをした。それが毎朝の目覚めの合図のように。その目覚めのキスは一度だけで終わりそうになく、彼は重たい指輪の外された手で私の頬を撫で、昨日同様とろけてしまいそうに甘い瞳で私を見つめた。 「……………雛菊」  まだ物足りない、と視線だけで訴えると、彼は眉を下げて苦笑した。 「どれだけ抱いても、足りない」 「私も」 「本当に、足りないから、全然」 「コーヒー、飲みます?」 「………うん」  彼は私の耳に口付けて、まるで猫のするそれみたいに頬ずりをした。最後に甘く濡れたキスをして、急いでベッドから立ち上がる。そうしなければ彼の熱に蕩かされてしまいそうだった。

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