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10年に至るまでの健やかな日々編 1 幸せな日々
昔、昔、あるところに小さな小さなケーキ屋さんがありました。
大きな道から少しだけ入った、とても見つけにくい場所にあるそのケーキ屋さんには、美味しいケーキを作る職人さんと、その美味しいケーキを絵にするのがとても上手な絵描きさんがいました。
「おっと、水溜り」
スニーカーが汚れてしまわないようにと、その大きな水溜りをジャンプして飛び越えた。
「おっとっと……っと」
そして、着地にドジりそうになってよろけて、寸でのところで堪えて、また走り出す。早く帰りたいんだ。一誠のところへさ。今日はパートのおばちゃんにたくさんご飯をもらったから、一緒に食べなさいって。
料理はしたことない。食べることはできるけれど、食べなくたって構わないのなら、そんなの作らないし食べないだろ? だから料理はしたことないんだ。
「ただいまぁ!」
「……おかえり」
昔々、その決まり文句で必ず始まる絵本のお伽話。
俺を作ってくれた三枝さんがよく読み聞かせてくれたっけ。人になるために本はとても有効的な教科書だからと、絵本をたくさん読んでもらった。
それを聞きながら、いつも思ってたことがある。
「今日は早かったね。トウ」
なんだかんだ色々あって、結局、二人は幸せに暮らしましたとさ、で終わるあのたくさんのお伽話。そのお伽話の中の登場人物たちにはどんな「その後」があるのだろうかって。ちゃんと幸せなままだったのか、何か起きてしまうのか、どうなんだろうって。
「うん。今日さ、パートさんにめっちゃいい匂いがする春巻きもらった。早く食べろって言われた」
セクサノイドの俺はずっと考えていた。
「え、来週、一誠の誕生日なのか?」
「あぁ、けど、別にいつも通りに過ごそうよ」
「え、なんでっ」
だって誕生日ってお祝いするもんだろ? それくらい知ってる。ケーキ作って、ご馳走作って、おめでとうってプレゼントをもらうんだ。そのくらい、その日一日、たくさん嬉しいことが待ってる。
「んー、なんか、もうこれ以上はお腹いっぱいで破裂しそうっていうかさ」
「?」
「トウがいて、ただいまって笑顔で帰ってくる、それだけですごく嬉しいから」
一誠は変わり者だ。
「だから、毎日が誕生日プレゼントって感じかな。あは、なんか俺、クサくない? っていうか、この春巻きめちゃくちゃ美味しいね。なに入れてるんだろ」
俺みたいなセクサノイドをさ。
「そのパートさんの生まれ故郷の味なんだって。ソーセージとニラと卵、それから適当に野菜入れて、巻くんだって言ってた」
愛してくれるんだ。
「へぇ、ソーセージかぁ。でもホント美味い」
「ならよかった」
「トウもひとついただきなよ」
一誠は俺に食べさせたがる。食べても一誠みたいに体を作る素には一つもならないのに。
「どんな味かそのパートさんに説明しないとだろ?」
「……」
「すごく美味しいから」
「うん」
そしてひとついただいた。たぶん、美味しいんだ。匂いは好きな匂いだった。けれどやっぱり食べても自分の身体にはいらないものっていう気がして、申し訳なく思ってしまう。
「あっ……ンンっ」
「トウっ」
「やぁああっ! あ、ヤダ、一誠、また、俺、イッちゃう」
「うん」
一誠の上にまたがった俺を抱きかかえるように、背中に手を回して引き寄せて、深く俺の中を硬いので貫きながら、やたらとピンク色を濃くしている乳首に歯を立てられた。
「くぅ……ン」
甘ったるい声が思わず溢れてしまう。中を、奥まで一誠のペニスでいっぱいにされながら、乳首をいじめられるの、たまらないんだ。
「いいよ、イって」
「あっ、あっ」
すぐにイっちゃう。
「あぁっ、あっ! あっ……ンン」
乳首を食まれながら、ペニスを根本まで全部深く突き立てられながら、そのまま俺をベッドに押し倒す。中をまた抉るようにペニスで掻き回されて、ぶわりと、お腹の奥が熱くなってきた。
「イっちゃうっ」
こみ上げてくる熱に悶えるようにシーツの上で身体をくねらせて、まだ洗い立てで太陽の匂いのするシーツをギュって力一杯握り締めた。
奥までたくさん突かれながら。
「あぁぁっ、一誠っ」
コリコリになった乳首を舌で転がされて、唇で扱かれて、ツンって尖るくらい可愛がられながら。
「あ、やぁっ……ん、あっ、ン、そこ、ダメっ」
「トウの中、トロトロ」
「あ、だって、これ」
セクサノイドはセックス のために作られた人形だから、すぐに濡れるし、男の身体をしていても、そこはちゃんと気持ち良くなれるようになっている。処女の時から。でも――。
「気持ち、い……一誠、だから」
でも、こんなに気持ちいいのも、こんなに濡れて、中が熱くなるのも、セクサノイドだからじゃないよ。
「一誠……もっと、して、奥」
「っ、トウ」
「一誠っ」
好きな人としてるから。一誠とだから、こんなになるんだ。
「あ、あ、あっ、あ、も、っと、一誠っ」
「トウっ」
「あ、イクっ、あぁ、イッちゃうっ、あ、あ、あ」
一誠が教えてくれた。
「あ、ああああああああっ」
好きな人とするセックスを。中が切なくなるくらいの恋しさを。
「っ、トウ……」
だから、こんなに気持ちいいんだ。
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