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「おや、デジャブですね」
足元がおぼつかない男を抱えて、車まで向かうと橘はそう言って笑った。
さすがに抱きかかえられるのは嫌がるかと思ったが、反抗する元気すらないようだ。
「彼の家まで」
「…承知しました」
俺は太ももの上に雪の頭を乗せるような形で、後部座席に横たわらせた。
薄らと目を開けた男は、消え入りそうな声で「すみません」と呟く。
「気にするな。しばらく寝ているといい」
そう言ってそっと目元に手をかざすと、雪はすぐに眠りについた。
「…本当に捨て猫がお好きですね」
ルームミラーからちらりと後ろの様子を確認した橘は、あまり感心しないような口振りで言う。
彼の言葉に何も答えないでいると、「それとも何か特別な理由でも?」と問い詰めてくる。
「俺は自分がしたいようにするだけだ」
窓の外を見つめたままそう答えたルイに、橘は静かに微笑みかける。
「…貴方の優しさは、時には残酷ですよ」
その言葉の意味は、俺にはよく分からなかった。
一国の王子として、他者への手を差し伸べることに躊躇することは無かったし、それはいつでも正しいことであると信じていた。
「それでも、助けない訳にはいかないだろ」
もちろん彼のことはほとんど知らない。
知っているのは俺の飼い猫と同じ名前であることと、歳上であること、Ω性を持つこと、それから酒が弱いことくらいだ。
でも赤の他人だからと切り捨てることなど俺には出来ない。
「…まぁ、橘の言い分も分からないことはないよ」
彼を助けたい“特別な”理由が全く無いかと言われたら、正直そうではない。
車内に充満する、じわりと脳を蝕むような甘い匂い。それでもどこか心地よくて幸福感に満たされる、優しい匂いだ。
俺の知る限り、ただのΩから香るものではない。
もしかすると彼が、俺の運命の___。
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