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官能的な香りを纏った男が出て行った後も、僕の体の疼きは治まらなかった。
長い時間 彼のそばで眠っていたからだろうか、自分の体には仄かにその香りが残っている。
「は、…ぁ…」
本能に逆らうことも出来ず、雪は覚束無い足取りでベッドへ向かい服を脱いだ。
男は自分自身のシャツに顔を埋め、柔軟剤の香りに混じる“媚薬”に酔いしれる。
堪らず熱源に手を伸ばせば、ぐっしょりと濡れた自身の“性器”がそこにはあった。
『あぁ、僕はやはりΩなのか』
そう認めざるを得ない自身の体の変化に絶望しながらも、蕩けた蜜壷の疼きは残酷にも雪の欲望を掻き立てた。
「あ゛…ぁ、…ん……」
2本の指を突き立てれば、濡れそぼったソコは いとも容易く飲み込んでいく。
まるで刺激を待ちわびていたかのように、キュウキュウと締め付ける肉壁。
とろりと溢れる液体が、臀部を伝いシーツを濡らす。
すでに正常な思考ではなくなった頭で、思い出されるのはなぜか王子の顔だった。
「っ、ん……ぁ…あ!」
僕より大きな手のひら。骨張っていて、長い指。
ふわりと頬を掠めた髪の感触や、じりりと焦がすような体温まで。
思い出される彼の全てが、僕を捕らえて離さない。
何度も脳内で再生される僕の名前を呼ぶ声に、絶頂への波が呼び寄せられる。
「も、ぅ…いく……っ」
自分自身の“性器”であった場所から、白濁が力なく押し出され、脱ぎかけの下着を濡らした。
まるで漏らしてしまったかのような羞恥を忘れるくらいに、一度たりとも男根を触ることなく達してしまったことが雪を絶望させた。
「は…、ははっ…」
それどころか更なる刺激を求める自身の体に、思わず笑ってしまう。
Ωである事実を受け入れるしかないことは分かっていた。
副作用の強い薬を飲んででも、Ωであることを忘れていたかった。
少しでも長い時間、自分はΩではないと、そう信じていたかった。
とうに日は暮れ 暗くなった部屋で、男は一人咽び泣いた。
夜空を彩る満月は、あまりにも明るかった。
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