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唇を重ねただけの、ひどく稚拙なキスなのに。 頬を紅く染めた茅野は、先程よりも濃い匂いを醸し出し、ルイの理性を奪っていく。 数時間前に雪に覆いかぶさっていた、あの男のようにはなりたくないのに。 愛のない行為など、したくはないのに。 本能が、求めてしまう。 俺には分からない。 この劣情は、“雪”自身に向いたものなのか。 それとも、雪の胎内に向けられたものなのか。 「……っ…ン、…ぅ…」 唇を離すと、茅野は物足りないとでも言うように、首に手を回してキスを強請った。 怪我をした手のひらの痛みも感じないほどに、口付けをする度に心が満たされる。それなのに、この身体は 際限なく快感を欲しがるんだ。 荒くなる2人の息が、白煙となりやがて消えていく。 廊下はすっかり冷えきっているのに、密着させた身体は火傷しそうな程に熱い。 「ン、…は…っ…ぁあ…」 腰に回された左腕は息苦しくなるほどに茅野を締め付け、骨ばった手は 欲望のままに臀部を弄り始める。 くにっと後孔を押されただけで茅野の身体は歓喜する。ガクガクと膝が震え、立っているのもやっとの状態だった。 絶え間なく香り続けるのせいで、ルイは思わず ワイシャツの隙間から覗く、真っ白な首筋に噛み付きたい衝動に駆られる。 ダメだと分かっているのに。 アルファという“呪い”に、抗えない。 「い゛っ……ぁ、あ゛…!」 茅野は痛みのあまりに呻吟しながらも、収縮する“性器”から蜜が溢れるのを感じ、目頭が熱くなる。 全身が性感帯になっているような感覚は、もはや恐ろしくもあった。 ぐっしょりと濡れた下着が 肌に触れる不快感さえ、正直もう分からない。 「はぁ…、っ…はぁ」 茅野の肩に頭を乗せた男は、苦しそうに呼吸をしながら「雪」と何度も名前を呼んだ。 あるはずもない愛を、懸命に探すかのように。 「ル、イ…っ…」 顔を上げた男の頬を伝う涙に、気がつけば僕は口付けていた。 伏せた瞼の奥に、僕の姿が映ることはない。 それもそのはずだ。 僕達は所詮、運命に逆らえなかっただけの2人なのだから。 なのになぜ、こんなにも胸が痛むのだろう。 ルイが欲しくて堪らないのは、疼き続けるのせいか。 それとも、高鳴るこの心臓のせいなのか。 蕩けきったこの脳みそじゃ、もう何も考えられない。

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