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目が覚めたのは、夜も更ける頃のことだった。
暗い病室には最初に目が覚めた時と同じ無機質な音が響いている。不思議とさっきのような頭痛はしなかった。
サイドランプの灯りを頼りにテーブルに置かれた眼鏡を取り、備え付けのデジタル時計を確認した。
02:43 12/25
時計の示していた日付に愕然とする。
キリストの誕生したとされる今日この日は、僕が生まれた日でもあるからだ。まあ、祝ってくれるのは両親くらいなのだけれど。
まさか34回目の誕生日を病院で過ごすことになるとは思ってもみなかった。
病気をしたことはないし、小さい頃から風邪を引くことは少なかった。それに、社会人になってからは健康だけが取り柄のようなものだったのだから。
「茅野さん。入りますよ」
しばらくまどろんでいると、気を遣うかのように静かにドアが開き、さっきの男の声が聞こえてくる。
その声に眠気は覚め、だいぶ楽になった体を起こした。
「あ、起きてたんですね」
「ついさっき…」
「もしかして起こしてしまいましたか?」
「いえ。大丈夫です」
「すみません。本当はナースコールが鳴ってから行こうと思っていたんですけど、心配で…」
医者に心配されるほどのことが自分の身に起こっているのかと思うと、少し怖くなる。
神妙な面持ちでカルテを眺める男をぼんやりと見つめていると、ふと声が聞こえてきた。
「…そんなに見つめられると、緊張してしまうな」
「あっ…すみません。…ぼうっとしてしまって」
「いや、いいんです。…それで、体調の方はどうですか?」
「少し…フワフワするというか、酔ってるような感じがして…」
「そうですか。吐き気や眩暈などの症状はありませんか?」
「今のところはない…ですね」
何だか嫌な予感がする。
冬にも関わらず暖かい室内で僕はじんわりと汗をかいていた。
「もしかすると、3日ほどそのような状態が続くかもしれません。今回投与した鎮静剤はかなり強いものですので、様々な副作用を引き起こすことがあります」
「…あの、僕の体に何が起きているんですか?」
シーツを強く握りしめ、恐る恐る男に尋ねる。
覚悟が出来たわけじゃない。でも事実を受け入れるほかないのだ。
「大変申し上げにくいのですが…」
遮光カーテンの向こうでは、しんしんと雪が降っている。
月明かりは分厚い雲で遮られており、やけに暗い夜だった。
「茅野さん。あなたは後天性のΩです」
医者の言葉はあまりにも絶望的なもので。
窓の向こうでは救急車のサイレンが鳴り響いていた。
▽後天性Ω
遺伝子の突然変異やホルモンの異常により体質が変わることがある。症例は少なく、詳しい原因はわかっていない。中でもΩ性への転換は非常に稀で、転換する際には激しい腹痛・頭痛を伴うと言われており、ショック状態に陥り意識を失うことがある。
1度目のヒートは体への負担が大きいため、十分注意が必要。
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