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彼が一国の王子であることを知り、何だか居たたまれない気持ちになる。
当の本人は僕と同じ名前の猫と無邪気に戯れているが、こんなにも簡単に よく知りもしない人を家に上げてしまっていいのだろうか。
「あの…ルイ様?」
「ルイでいい。それと敬語とか使わなくていいから。どうせアンタの方が年上だろ…いくつ?」
「34だけど…」
「俺は27。34にしては、昨日は随分泣いていたな」
「そ、それは…。そのことは忘れてくれないか」
僕の方から始めたはずの会話は、いつの間にか男のぺースになっていた。
ここがどこであるかを聞こうと思っていたというのに。
「それは無理。俺、結構アンタの泣き顔好きだし」
「…か、からかわないでくれ」
僕みたいな冴えないおっさんにそんなことを言うなんて、面白がっているに違いない。
そうは思うものの やはり王子に言われるとクルものがあり、妙に胸がうるさかった。
部屋の一角に設置された大きな窓。壁一面に広がる窓の向こう側を見るフリをして 彼に背を向け、火照った顔を隠す。
見られればまたからかわれることは分かっていたからだ。
「からかってるように見える?」
「当たり前っ…」
あっけらかんとした様子の男を前に、僕はついムキになってしまう。
後ろを振り向いた瞬間、やってしまったと思った。
「ちょっと…ま、待って」
「待たない」
さっきまで猫を可愛がっていたルイは、いつの間にか僕のすぐ後ろに立っていた。
あいにく僕は窓ガラスによって逃げ道を失っているので、いとも簡単にその腕の中に閉じ込められてしまう。
「いい匂いだ…」
「…ひっ」
首元に顔を埋められ、擽ったさに思わず声が漏れた。
肌を掠める髪は柔らかく、僕を抱きしめる体温は心地良い。甘いだけでなく どこか肉欲を刺激するような彼の香りに、体が熱くなっていく。
「あっ…ぁ、いや…これは」
腕の中で身を捩ると わずかに昂ったモノが彼の太もも辺りに擦れ、思わぬ刺激が生まれた。
堪らず自分のものとは思えぬ声を発してしまい、羞恥心が募る。
「…気持ちいい?」
どこか熱っぽい息が耳にかかると、骨の髄まで溶かされてしまいそうな気がした。
「ん…ぅ、ごめっ…ごめんなさい」
刺激を与えれば与えるほど、どうにもならない熱が生まれては行き場を失う。
早く解放されたいとは思うものの、この程度の刺激では さすがに無理があった。
「っ…ふ、ぁ…あぁ…」
「…触って欲しい?」
その問いかけに僕は首を横に振る。
目の前の男は王子なのだ。「うん」と答えてしまいたい衝動を押し殺し、わずかに腰を引いた。
…そのはずだったのに。
「ぁん…っ」
突然 足の間に差し込まれた彼の腿。それは、まるでその場所を刺激するためだけにそうされたように思えた。
「触ってもいい?」
僕にはもう、“ノー”という選択肢はなかった。
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