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手を出すつもりはなかった。 むしろ、彼の言った通り 少しからかおうとしただけだった。素直でわかりやすい反応を示す 冴えない男に、意地悪をしたくなってしまうのは仕方のないことだろう? しかし、触ってもいいかと尋ねたときにはもう 余裕はなくなっていた。 男の放つフェロモンに当てられたのか、それとも自分の腕の中で乱れる男の体を暴きたいと思ってしまったのか。どちらにせよ、俺が雪という名の男へ興味を持っていることは否定できない。 年上はタイプではないというのに、艶かしい男の声と 腿に擦りつけられる熱の塊は、決して不快なものではなかった。 「あっ…ぁ…、いや…いやぁ…っ」 足の間に割り込ませた腿で 熱源を軽く押してやると、彼は大袈裟なほどに反応をしてみせる。 俺の肩に押し付けた頭を左右に振りながら「いや」を繰り返す男は、さらに濃い匂いを撒き散らしていた。 「くそっ…俺も、ヤバい」 スウェットの前面は昂った自身に押し上げられ、窮屈そうに張り詰めている。アルファとしての欲望なのか、この男を欲しいと思ってしまっている自分がそこにはいた。 中に、入りたい。…犯したい。 こんな乱暴な感情に駆られたのは初めてだった。 行為は相手を悦ばせるためのものだと思っていたし、快楽のために相手の体を貪ったことはない。アルファである自分は薬でうまく制御できていたからだ。 「ぁ、すごい…っ」 「ちょっと…おい、アンタな…!」 腕に抱いた男の理性はすでに飛んでいるのか、躊躇なく屹立に触れてくる。布越しだったので大した刺激にはならなかったが、潤んだ瞳で見つめてくる姿の方が官能的で 堪らなかった。 「っ…こっち来い」 細っこい腕を掴み、黒革のソファへと連れていく。ベッドを選ばなかったのは、もちろん余裕がなかったのもあるが、自分への戒めでもあった。向こうへ行けばこの匂いに惑わされ、最後までしてしまうに違いない。 俺はそれだけはどうしても避けたかった。好きでもない相手とする行為ほど、虚しいものはないからだ。 「あ、あの…僕も、ちゃんと君の…触りたい」 この男はどこまで俺を煽れば気が済むのだろう。 堪らず 彼に覆いかぶさり、前戯もなしにスラックスのボタンに手をかけた。 らしくない自分の存在に気づきながらも、その手を止められなかった。

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