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お互いの処理を終え、後始末を始める男の手つきは慣れていた。ローテーブルに置かれたティッシュを数枚取り、吐精の残骸を拭っていく。
「ご…ごめん。こんなことまでさせて…」
「いいよ。…疲れてんだろ?」
彼の言う通り、普段自分でするときの射精とは違い、何だかとても疲れた。
行為が良すぎたためか、後からくる疲労は大きい。最中は彼の匂いや与えられる快感に満たされていたので、終わった後にまさかこんな倦怠感に襲われるとは思っていなかった。
やはり これも性が変わったことが原因なのだろうか。
「あと、その…悪かった」
「え?」
「好きでもない奴とこんなことするの…本当は嫌だったよな」
彼は案外 真面目なのかもしれない。
謝る彼の顔は真剣そのもので、何だかこっちが申し訳なくなってしまう。今回の“事故”の原因は間違いなく僕にあるのだから。
「そ、そんなこと…ないよ。大体、こうなった原因は僕だし…謝るなら僕の方だ」
「でも…キス、とか。俺 なんか夢中で…アンタ、ゲイじゃないんだろ?」
「あ…うん。でも意外とイケるのかもなんて。…ハハ」
彼に言ったことは強ち間違いでもない。
さすがに自分以外の男性器に触れることになるとは思っていなかったが、キスをされたことに対しては、不思議と違和感を感じなかった。
むしろ、それを心地よいと感じている自分もいた。
「…ダメだ」
冗談のつもりが、どうやら彼の癪に触ったらしい。
ブロンドの髪をかきあげ、じっと僕を見つめてくる。ひやりと突き刺さる視線に、咄嗟に身なりを整えて体を起こした。
「アンタは…ダメだ」
「…どうして?」
男の答えは「オメガだから」とのことだった。
何をするにしても、僕には“オメガ”がつきまとう。仕事も、日常も、…恋愛までも、何もかも制限されてしまうのだろうか。
「僕は恋愛もしたらいけないのか?」
「…そういうわけじゃない。ただ、男はやめておけと言ってるだけだ」
「そんなの、君が決めるようなことじゃないだろ」
「いいか?中には俺みたいに抑制薬を飲んでいない奴だっている。優しくない奴だって。昨日の夜も言ったよな?そういうの、ちゃんと分かってんのか?」
この時はまだ、僕は彼の優しさに気づけていなかった。
呆れたようにため息をついた男はソファを立ち、部屋を出ていこうとする。
「…じょ、…冗談だよ。言ってみただけで…」
慌てて彼のあとを追うと、寝室へとたどり着いた。
「怒ってるのか?…変なこと言って悪かったよ」
ルイはハンガーに掛かったコートや僕の荷物を持ち、こちらへ振り向く。
「帰ってくれ。アンタみたいな奴は大嫌いだ」
押し付けるように渡された荷物はひどく重たく感じた。
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