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「茅野さん、まだ体調悪いんですか?」
後輩である坂下に声を掛けられたのは、昼休憩をとっているときのことだった。
コンビニ弁当を開けながら、男はそう尋ねてくる。
「…いや。平気だよ」
正直、朝飲んだ薬のせいか 体がだるい。
オメガであることを認めたくはなかったが、薬を飲まなければ余計にそれを自覚する羽目になるだろう。僕はそれだけは避けたかった。
憂鬱の原因はそれだけじゃない。
救急搬送され、五日間の入院生活を送った僕の出費はかなりのものだ。貯金をしていて良かったとつくづく思う。
明日は遅番のため、午前中にも銀行へ振込をしに行こうと思っているが、実に気が重い。
「あんまり無理しないでくださいね。病み上がりなんですから」
「あぁ。ありがとう」
そう言って笑ってみせると、坂下は安心したのか弁当を黙々と食べ始める。
一週間近く休んでしまった理由を聞かれなかったことだけが唯一の救いだ。僕は 食後のお茶を啜りながら、新商品の概要に目を通した。
朝はシャワーを浴びたりゴミ出しをしたりと忙しく、結局読むことが出来なかったのだ。年末商戦で慌ただしくなる中、休んでしまったことが悔やまれる。
朝 彼に聞いた話だと、あまり売れ行きは芳しくないようだ。近頃天気が良くないのもあり、なかなか客が来ないのだと。
店長に休んだことを嫌味ったらしく言われたのも、多分そのせいだろう。
湯呑みの底に沈殿した茶葉の屑を眺めていると、ついため息が漏れた。
職場が嫌いなわけではないが、中にはあまり得意ではない人もいる。周りを蹴落としてでも上に行こうとする同期や、利己的な店長がまさにその代表例だ。
「あ、茅野さん!」
「はい?」
「さっき店長が呼んでましたよ。話があるって」
「あ…わざわざすみません。ありがとうございます」
声をかけてきたのは、別のコーナーを担当している加藤さんという女性社員だった。名前と顔くらいは把握しているが、ほとんど関わりはないので詳しいことは知らない。それは多分彼女も同じであろう。
せめて同じ家電担当の人に伝えればいいものを…。本当に人遣いの荒い人だなと内心思いながら、席を立つ。
「坂下くん。遅くなったらごめん」
「あ、いえ。俺 食べたらすぐ行くんで大丈夫ですよ」
真面目な彼らしい返事に安堵しつつ、僕は湯呑みを軽く洗い、休憩室を後にした。
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