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翌朝。寒さに目が覚めたのは、七時過ぎのことだ。カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細める。 しばらく微睡んだ後、そばで眠る愛猫を起こさないようにベッドから降り 一度大きく伸びをした。 「さむ…」 母国に比べれば気温は高いが、室内は向こうの方が暖かいような気がする。正直、まさかこんなにも家の中が冷えるとは思っていなかった。断熱性の低い鉄筋のマンションに住んだことが間違いだったのだろうか。 布団に入る前に脱いだガウンを羽織り、リビングへ向かった。 ベッドの中で温められていたはずの足はフローリングを歩けばすぐに冷やされてしまう。スリッパを履けばいいのだろうが、どうも習慣づけることができない。座った革製のソファにも温もりを求められるはずもなく、俺はすぐに暖房をつけた。 自分でも思っていた以上にあの男のことを気にかけているようで、ここに来ると自然と昨日のことを思い出してしまう。あんなふうに本能のままに誰かを求めたことは今まで一度もなかった。“好意”と“合意”。体を重ねる際には、必ずその二つを守るように努めてきたからだ。そんな俺にとって彼との行為は完全にポリシーに反していた。 しかし、昨日の出来事をフェロモンに惑わされたのだと割り切れるはずもなかった。 そして何より俺を悩ませているのは、あの最悪な別れ方をしてしまったことだ。今でも胸の(しこり)となっている。それなのに、謝ることも出来ないなんてな。 …取り除くにはまだまだ時間がかかりそうだ。 「ニャー」 ソファの上で寝そべり ぼうっとそんなことを考えていると、いつの間にか起きていた愛猫が寝室からこちらをじっと見ていた。 「ユキ。おはよう」 そう声をかけると、ユキは欠伸をして再び寝室へ消えていってしまう。“彼”に主人を慰める気は更々ないようだ。 一人の“雪”を逃し、一匹の“ユキ”に見捨てられた俺は、ため息をつかずにはいられなかった。

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