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Halloween Night 第2話

「んで、お前らの塩梅(あんばい)はどうよ?」 「はぁ……俺、去年は野球拳でビリ取っちゃってさ。ボトルバトルになったんだけど、誰も救済してくんなくて。結局、裸踊りまでさせられたぜ……。思い出すも無残っつーか、もう散々だったからなぁ。とりあえずはボトル入れてくれそうな子を確保しとくっての? んで、アポ取りまくってるんだけどー、今んとこ確約ナシ!」  溜め息まじりに中堅ホストの辰也(タツヤ)がそう呟けば、それを横目に入店間もない新人圭吾(ケイゴ)は初イベントに興味津々だ。その背後からもう一人の中堅組、純也(ジュンヤ)が企み有りきとばかりに話の輪に割って入った。 「()りゃ~、今年も太客の獲得は無理そうだからー。この際、野球拳に勝つことに賭けようかと思ってんのよ」 「つかさ、何でハロウィンに野球拳が出てくんだって話だよな。マジ、とんでもねえ企画だわ」 「そうそ! そのとんでもねえ企画を”更にトンデモねーもん”にして盛り上げてやろうかと思ってよ」 「更にとんでもねえもん――だ?」 「題して”野球拳で頭領(ドン)を脱がそう企画”ってどうよ!」 「頭領って、六本木から来たあの龍さんのことか?」 「ビンゴ! あのスカした(ツラ)の化けの皮を剥がす! あいつったら態度デケぇ上に、着るモンはこれ見よがしな高級スーツばっかだし!」 「ああ、あれ絶対オーダーメイドっすよね?」 「そ! 客がそれに合わせてネクタイ選ぶらしくてな。あの人ん()には一回結んだら使い捨てできるくらい本数あるらしいって聞いたぜ! はっきし言ってイケすかねえんだよねー。今時ホストがネクタイにスーツなんて着るかよ? ビジネスマンじゃあるめえし。実際、彫り物でも隠してんじゃねえのかって疑っちまうくらい!」 「うひゃー、マジっすかー! もしか、背中にでっかい龍が舞ってたりして!」 「そんで”龍”ってか?」 「いや分からん! 案外胸元のこの辺りからズズズィーっと手首スレスレまで入ってたりして! なぁ?」 「えー! だから毎度ばっちりスーツ着込んで隠してるってことっスかッ!?」 「いやぁーん、ヤッダー! 渋いー! その立派な龍の腕に抱き締められたぁーい! ってか?」  まるで乙女の花園よろしく、黄色い喚声でロッカールームは大騒ぎだ。 「だからこの際、野球拳であの人を脱がせちゃおうって話よ! どうだ、お前ら、乗るか?」  意気揚々とそんなことを言った純也の提案に、その場は一瞬シーンと静寂に包まれた。だが次の瞬間、 「乗る!」 「乗った!」 「乗ります、その話!」  と、一気に大はしゃぎとなった。 「言われてみればそうっスよねー、龍さんって胸元(はだ)けたシャツとか着てんの見たことないし……ダークスーツで社長気取りってんですか? アクセとかも全然してないでしょ? プレゼントしたって一度もつけてくんないって、こないだ女の子たちがこぼしてんの聞きましたもん」 「かー! 羨ましいっつーか、腹立たしいっつーか! 俺なんか滅多に貢ぎモンなんかこねえってのによー」 「けどそこがまたシブイってんでしょ? ホストらしからぬ魅力とか何とかって言われてませんでしたっけ?」 「ほんっと、らしからぬ――だよ! 未だにあの人がお客さんに気ィ使ってんの見たことねえし。ホント不思議っつか、何であんなのが……」 ――六本木でナンバーワンを張っていられたか皆目不思議! 「だよなー」  ほぅっと深い溜め息の後、再びの沈黙にどんより気味だ。そんなジメジメした雰囲気を吹き飛ばそうと、今度は新人の圭吾が場を取り持つように先刻の続きへと話を振った。 「ですからー、あの人はホストじゃないんですって! 頭領でしょ、頭領! そのスカした頭領様を剥いで脱がして本性暴いちゃおうって話っすよね?」 「まあ、後が怖そうだけど……でもおもしろそうだわな!」 「だろだろ? そんじゃ、一丁作戦でも練りますかね?」  ギャハハハ、と声高々な笑い声と共に、再び大盛り上がりになったそんな時だった。 「ところで――そのバカくせえ企画。ハロウィンなんたらっての? それ、最初に考えたのは誰なんだ?」  ヒョイと後方からそう訊かれて、着替え中のホストの一人が半ば呆れ気味に、「え? オーナーだけど?」と答えた瞬間だ。そんな分かりきったようなことを訊くのは何処の素人だといった調子で、怪訝そうに振り返った先に、噂の”頭領”当人がいつもの無表情で立っているのを発見して、彼は腰が抜けんばかりに驚いた声を上げた。 「おわー! 頭領……! ……じゃなかった……龍さん……ッ! いつからそこにいらっしゃりました……んで……ござります……ッスか……!?」

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