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Double Blizzard 第4話

「……クソッ! 波濤の携帯の電源が切られてやがる……!」  黒服からの説明を聞き終えた龍が、そう舌打ちをした。GPS機能で現在の居場所を突き止めようとしたのだが、肝心の電源が入っていないのでは役に立たない。波濤を連れ去った男たちの仕業だろう、彼らもなまじ素人ではないということか――。 「仕方ねえ、まだそう遠くへは行ってねえだろうから……手当たり次第に網を掛けるしかねえか」  龍はすぐさま携帯電話を取り出すと、 「俺だ。直ぐに車を回せ! ああ、帝斗の店の正面だ。それから――今、動ける者を全員集めて、店から半径二十キロの範囲内を徹底的にマークしろ。ああ、そうだ、至急だ! 波濤が連れ去られた。黒のワゴン車を全て当たれ。ナンバーは……」  電話の相手に険しい表情で指示を伝える彼は、いつもの雰囲気からは逸脱して別人のようだった。まあ、普段から他人を寄せ付けない、取っ付き憎く気難しげな雰囲気ではあるものの、今はオーラが全く違う。会話の声音からしても、ともすればマフィアの抗争でも始まるんじゃないかというような、凄まじい緊張感を纏っている彼に、黒服をはじめ店のホスト連中は唖然とさせられてしまったほどだった。  そこへ、ざわつき始めたホストたちを掻き分けるようにしながらオーナー帝斗がやった来た。波濤が接客させられていたという個室の様子を確認して、龍の元へと戻って来たのだ。  帝斗は龍の腕を取ると、 「車は呼んであるな? では行くぞ」  黒服らに後を任せて、急ぎ戸口へと向かう。店頭には龍が呼んだ車が既に到着していた。  一目で高級車と分かる黒塗りの外車である。帝斗と龍の後を追い掛けて来た黒服らでさえ、思わず目を丸くしてしまう程に磨き抜かれている――まさにピカピカという言葉しか出てこないような代物に、一同は緊急事態も忘れて呆然とさせられてしまったほどだった。  一応、ホストクラブのオーナーの車だから運転手やお付きがいてもおかしくはないのだろうが、それにしても雰囲気はまるでどこぞの頭領が乗るような高級車だ。しかも、よくよく考えてみれば、この車を呼んでいたのはオーナーではなくホストの龍だったはずである。如何にナンバーワンといえども、こんな車を乗り回せるほど稼いでいるのだろうかと思わないでもなかったが、この龍になら有り得そうである。 「波濤の行き先なら心配はない。GPSで既に居場所を突き止めたよ」 「何――!?」 「大丈夫。彼らの車はすぐに追えば問題ない距離にいる」 「おい、帝斗! 分かるように説明しねえか!」  運転手の他に車の扉を開けて待っていた精悍な雰囲気の男に「やあ、世話になるね」と軽く会釈をしながら車に乗り込んだ帝斗に、龍は少々焦り口調で問い質した。 「居場所が分かったってどういうことだ! あいつの携帯は電源が落ちてて……」 「こういう時の為にもうひとつの手段を残しておいたのさ」 「もうひとつの手段だと?」 「ああ。僕が以前、波濤に贈った宝石付きの名刺入れにGPSを仕込んでおいたんだ」  少々得意げな帝斗の言葉に、龍は思い切り眉をしかめた。  扉が閉まると共に音もなくといった調子で静かに、だが且つスピーディに車が滑り出すのを見送りながら、ワラワラと野次馬化していたホストの内の誰かがふと口走った。 「龍さんて……やっぱ本場モンのマフィアだったんだろか……」 「……ああ、ンなワケねえって分かってても、そう思いたくもなるよな。まさに”頭領”ってオーラだったし」 「運転手付きだったし、ちょっと強面の付き人もいたじゃん。あれって龍さんの部下かなんか?」 「そんな雰囲気だったよな。兄貴、お疲れ様でやす――みたいな感じでビシーッと頭下げてたし」 「てか、あれってオーナーの付き人じゃねえの?」 「けど、車を呼んでたのは龍さんだぜ? それに、オーナーはあの付き人の(ひと)に『お世話様』みたいに声掛けてたけど、龍さんは会釈すらしてなかったじゃん。ありゃ、自分の手下に対する態度以外の何ものでもねえって感じだったぜ?」 「はぁ……。てことは、やっぱり龍さんてただのホストってわけじゃねえってこと? もしか、本当にヤクザの跡取り息子とかだったりして」 「うへぇ、マジでか!」  いつも皆でおもしろおかしく噂話に花を咲かせていた”仏頂面の頭領様”の正体を目の当たりにしたような心持ちで、一同はまたもやそんな会話に浮き足立っていた。 「けど、そんなら波濤さんも安心だな。すぐに行き先突き止められるだろうし、オーナーと龍さんが乗り込んで行けば怖いモンなしだろ!」 「だよな! ああ、波濤さんー、無事に戻って来てくださいよー! 今、頭領が迎えに行きやすからねー!」  いつの間にか店頭にはホストたちであふれ、まるでお祭り騒ぎである。 「さあ! とにかく店に戻った、戻った! お客様を放ってこんなトコで油売ってる場合じゃないぞ、皆!」  黒服に尻を叩かれたホストたちは、未だ冷めやらぬ想像を惜しみつつも、店内へと引き返したのだった。

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