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夜の闇を溶かし込んだような艶やかな髪と瞳。
花の蕾のような唇。
腕の中で淡く染まっていく白磁の肌。
その肌から立ち上る甘い香り。
最愛の伴侶と引き剥がされた一ヶ月の、何と味気ないことか。
普通の男性であればとっくに手近な女性に走っているであろうが、龍嗣は事情が違う。
20歳の歳の差はあるがお互いにめろめろだし、伴侶以外に欲情しなくなっているのだから…。
「璃音…」
あの耳障りの良い声が聞きたい。
龍嗣を煽るように熱を帯びる肌に触れたい。
一つに溶け合いたい…。
こんな状態で仕事に集中など出来る筈も無く、決済しなければならない書類に手をつける気も起きる訳がない。
いい歳をして何をやってるんだかと言われても、気力が全く湧かないのだ。
あとどれくらい待てばいい?
あとどれだけ我慢すればいい?
いや、あとどれだけお預けを喰らえば終わるのだ、この苦行は…っ!
悶々とする龍嗣を恐れて、秘書も重役も社長室に寄り付きもしない。
ただ一人を除いては…。
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